ブロッホの定理は、周期的に原子が並ぶ固体の波動関数に対して強力な道具となる。簡単のため1次元について説明する。周期的に格子間隔 で規則正しく原子が並んでいる場合、そのポテンシャル
は図のように周期的になる。

ブロッホの定理は の並進対称性から導かれる定理である。
- 自由電子模型:無限に広い場合(3次元)
- 自由電子模型:端がない周期的な系(1次元、3次元)
- 1次元井戸型ポテンシャル(無限井戸)
- 1次元井戸型ポテンシャル(有限井戸)
- 周期ポテンシャルのある場合(ブロッホの定理)←
- クローニッヒ・ペニー模型
1. ブロッホの定理を導く
1.1 並進させる
このとき、ある位置 から
だけずれた点でもポテンシャルは同じ値になっている(ポテンシャルの並進対称性)。すなわち、
が成り立つ。 に並進させる演算子を
と定義すると、
のように表すことができる。
波動関数については一般に、
のように、格子の並進に対する対称性はない。
そこで、ポテンシャルが並進対称性をもつときの波動関数 を調べたい。
は時間に依存しないシュレディンガー方程式、
であらわすことができる。
1.2 シュレディンガー方程式の並進対称性
の形を作るため、シュレディンガー方程式の両辺に
を作用させる。左辺は、
となる。ここで第2項の と同様に、第1項の運動エネルギーの項についても並進対称性をもつ(
が並進対称性をもつことに由来)。したがって、ハミルトニアン
も並進対称性をもつ。
以上より式(1)は、
のようになる。この式から、と
が交換可能であり同時固有関数をもつことがわかる。実際に、この式を見れば、
に
を作用させたものがハミルトニアン
の固有関数となっていることが確認できる。
「同時固有関数をもつ」とは同じ固有関数の形で、複数の演算子に対する固有値方程式が作られるということである。
今の場合、演算子は と
である。
に対する固有値方程式は明らかに、シュレディンガー方程式、
である。
1.3 並進演算子に対する固有値
に対する固有値方程式の固有値を
と表せば、
である。これを満たす固有値 と固有関数
はどのような形であろうか。試しに、ポテンシャルと同じ周期性を持った周期関数
を用いて
とでも置いてみる。この関数に対して式(2)の は
であり、式(2)の右辺は、
である。したがって式(2)は、
と書ける。
1.4 ブロッホの定理を得た
今の計算過程で出てきた、式(4)がブロッホの定理(1次元)である。すなわち、
がブロッホの定理である。あるいは、 の周期関数を用いた式(3)、
もまたブロッホの定理と呼ばれることもある。このとき、ブロッホの定理を満たす をブロッホ関数と呼ぶ。
2. ブロッホ関数を描く
絵を描いてみる。
水色は周期関数 を表している。黒線は
の実部 cos(
) を描いた。格子間隔は
とした。周期境界条件は
とした。実際には、波動関数は複素数なので、複素数の形
と
との積になる。この2つの関数の積をとって
を書き加えてみる。
赤線が波動関数 を表したブロッホ関数である。周期関数
が
によって変調されている様子がわかる。
3. まとめ
前編はここまでで、後編では「周期境界条件」と「波数 」の意味などを説明していきたい。
ブロッホ関数のプロットをしたい方:
ここでプロットに用いた関数は以下の通りで、gnuplotで簡単に書くことができます。関数系は適当なものを選択しました。
以下を参考にすればブロッホ関数が楽しめます。
set sample 500 set xrange [-1:5] set yrange [-3:3] set zeroaxis tp=2*pi f(x) = sin(tp*3*x)/2.0 + sin(2*tp*x) + sin(tp*x)/3.0 g(x) = sin(tp*x/8.0) h(x) = (sin(tp*3*x)/2.0 + sin(2*tp*x) + sin(tp*x)/3.0)*sin(tp*x/8.0) plot f(x) lt 3 lw 4, g(x) lt 8 lw 4, h(x) lt 7 lw 4