絵で見るブロッホの定理【前編】


 ブロッホの定理は、周期的に原子が並ぶ固体の波動関数に対して強力な道具となる。簡単のため1次元について説明する。周期的に格子間隔 a で規則正しく原子が並んでいる場合、そのポテンシャル V(x) は図のように周期的になる。

potential_x+a
ポイント

ブロッホの定理は V({\bf x}) の並進対称性から導かれる定理である。



 

1. ブロッホの定理を導く

1.1 並進させる

 このとき、ある位置 x から +aだけずれた点でもポテンシャルは同じ値になっている(ポテンシャルの並進対称性)。すなわち、

    \begin{eqnarray*}V(x+a)=V(x)\end{eqnarray*}

 

が成り立つ。 x\rightarrow x+aに並進させる演算子をT_aと定義すると、

    \begin{eqnarray*}T_a [V(x)]=V(x+a)\end{eqnarray*}

 

のように表すことができる。

 波動関数\varphi(x)については一般に、


    \begin{eqnarray*}\varphi(x+a)\neq\varphi(x)\end{eqnarray*}

のように、格子aの並進に対する対称性はない。

wave_function_x+a

 そこで、ポテンシャルが並進対称性をもつときの波動関数 \varphi(x) を調べたい。\varphiは時間に依存しないシュレディンガー方程式、

    \begin{eqnarray*}H(x)\varphi(x)=\left[ -\frac{\hbar^2}{2m}p^2+V(x) \right] \varphi(x)=E \varphi(x) \quad \cdots (1)\end{eqnarray*}

であらわすことができる。

1.2 シュレディンガー方程式の並進対称性

T_a[\varphi(x)]\;(=\varphi(x+a)) の形を作るため、シュレディンガー方程式の両辺に T_a を作用させる。左辺は、

    \begin{eqnarray*}T_a[H(x)\varphi(x)]&=&H(x+a)\varphi(x+a)\\ \\&=&\left\{ T_a\left[-\frac{\hbar^2}{2m}p^2 \right] + T_a\left[V(x) \right]\right\} \varphi(x+a)\end{eqnarray*}

となる。ここで第2項の V(x) と同様に、第1項の運動エネルギーの項についても並進対称性をもつ(p=ih\partial/\partial x が並進対称性をもつことに由来)。したがって、ハミルトニアン H(x) も並進対称性をもつ。

    \begin{eqnarray*}T_a[H(x)]=H(x+a)=H(x)\end{eqnarray*}

以上より式(1)は、

    \begin{eqnarray*}T_a[H(x)\varphi(x)]=H(x)\varphi(x+a)=E\varphi(x+a)\\ \\\leftrightarrow H(x)T_a[\varphi(x)] = E T_a[\varphi(x)]\end{eqnarray*}

のようになる。この式から、T_aHが交換可能であり同時固有関数をもつことがわかる。実際に、この式を見れば、\varphi(x)T_a を作用させたものがハミルトニアン H の固有関数となっていることが確認できる。

同時固有関数(同時固有状態)

「同時固有関数をもつ」とは同じ固有関数の形で、複数の演算子に対する固有値方程式が作られるということである。

 

 今の場合、演算子は HT_a である。H に対する固有値方程式は明らかに、シュレディンガー方程式、

    \begin{eqnarray*}H(x) \varphi(x)=E \varphi(x)\end{eqnarray*}

である。

1.3 並進演算子に対する固有値

T_a に対する固有値方程式の固有値を C_a と表せば、

    \begin{eqnarray*}T_a\varphi(x)=\varphi(x+a)=C_a \varphi(x) \quad \cdots (2)\end{eqnarray*}

である。これを満たす固有値 C_a と固有関数 \varphi(x) はどのような形であろうか。試しに、ポテンシャルと同じ周期性を持った周期関数 u(x+a)=u(x) を用いて

    \begin{eqnarray*}\varphi(x)=u(x)\exp(ikx) \quad \cdots (3)\end{eqnarray*}

とでも置いてみる。この関数に対して式(2)の \varphi(x+a)

    \begin{eqnarray*}\varphi(x+a)&=&u(x+a)\exp(ik(x+a))\\&=&u(x)\exp(ikx)\exp(ika) \quad \cdots (4) \end{eqnarray*}

であり、式(2)の右辺は、

    \begin{eqnarray*}C_a \varphi(x)=C_a u(x)\exp(ikx)\end{eqnarray*}

である。したがって式(2)は、

    \begin{eqnarray*}u(x)\exp(ikx)\exp(ika)&=&C_a u(x)\exp(ikx)\\\therefore C_a &=& \exp(ikx)\end{eqnarray*}

と書ける。

1.4 ブロッホの定理を得た

今の計算過程で出てきた、式(4)がブロッホの定理(1次元)である。すなわち、

    \begin{eqnarray*}\varphi(x+a)=\exp(ika)\varphi(x)\end{eqnarray*}

がブロッホの定理である。あるいは、u(x+a)=u(x) の周期関数を用いた式(3)、

    \begin{eqnarray*}\varphi(x)=u(x)\exp(ikx)\end{eqnarray*}

もまたブロッホの定理と呼ばれることもある。このとき、ブロッホの定理を満たす \varphi(x) をブロッホ関数と呼ぶ。

2. ブロッホ関数を描く

絵を描いてみる。

Bloch1

 水色は周期関数 u(x)を表している。黒線は \exp(ika) の実部 cos(ka) を描いた。格子間隔はa=1とした。周期境界条件は N=8 とした。実際には、波動関数は複素数なので、複素数の形 \exp(ika)={\rm cos}(ka)+i\,{\rm sin}(ka)u(x) との積になる。この2つの関数の積をとって \varphi(x) を書き加えてみる。

Bloch2

 赤線が波動関数 \varphi(x) を表したブロッホ関数である。周期関数 u(x) が \exp(ika) によって変調されている様子がわかる。

3. まとめ

 前編はここまでで、後編では「周期境界条件」と「波数 k」の意味などを説明していきたい。

ブロッホ関数のプロットをしたい方:
ここでプロットに用いた関数は以下の通りで、gnuplotで簡単に書くことができます。関数系は適当なものを選択しました。

    \begin{eqnarray*}u(x)&&\rightarrow \frac{{\rm sin}(6\pi x)}{2} + {\rm sin}(4\pi x)+\frac{{\rm sin}(2\pi x)}{3}\\ \\\exp(ika)&&\rightarrow {\rm sin}\left(\frac{\pi x}{4} \right)\end{eqnarray*}

以下を参考にすればブロッホ関数が楽しめます。

set sample 500
set xrange [-1:5]
set yrange [-3:3]
set zeroaxis
tp=2*pi
f(x) = sin(tp*3*x)/2.0 + sin(2*tp*x) + sin(tp*x)/3.0
g(x) = sin(tp*x/8.0)
h(x) = (sin(tp*3*x)/2.0 + sin(2*tp*x) + sin(tp*x)/3.0)*sin(tp*x/8.0)
plot f(x) lt 3 lw 4,
     g(x) lt 8 lw 4,
     h(x) lt 7 lw 4


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