原点に対して空間反転の操作を行えば、 にあった座標は
へ移される(原点について点対称)。 これは量子力学などの物理ではパリティ変換(反転)として知られ、空間座標の符号を変換する。
たとえば、原子に一様な電場をかけた場合にエネルギー準位が分裂する(シュタルク効果)を考える際にもこの対称性は使われる。
空間反転
直交座標と極座標の場合について見ていく。
直交座標の成分
空間反転により と変換される。
を直交座標系で書くと、空間反転の操作
により
に移される。この操作 を3
3の行列で表現すれば
である。 となる。通常の軸周りの回転を表す行列
,
,
を組み合わせて
を作ることはできない。なぜなら、
は であるためである。たとえば、直交行列に関して行列式の性質から
となる。
極座標の成分
を極座標表示で表すと
この式から がどのように変換されるか見ていく。そのあとで、図を書いて
の関係を見ていく。
空間反転に対してベクトルの大きさ変化しない () ので
である。次に
について見てみると、
成分について
でないといけない。
は変化しないので、
である。したがって、 と変換される。最後に
について見ていく。
成分が
となるためには、
でなくてはならない。したがって、 となる。
これらの結果をまとめると極座標について
となる。このことを下の図に表した。まず、 平面に対して反転操作を行い(左図)、
軸に対して反時計回りに
回転すれば(右図)、空間反転に対応することが確認できる。この操作はその性質上、
軸回転から始めて、
平面の反転をとっても同様の結果になる。
![](https://batapara.com/wp-content/uploads/2020/06/parity.png)
パリティ
以下ではパリティ反転(空間座標を反転させる操作)を表す演算子を とする。つまり、ある関数
に対して
となる演算子 について考える。
* 式(1)は固有値方程式ではない。固有値方程式は の形で、両辺に現れる関数は同じ形でないといけない。以下では、
の固有値・固有関数を考える。
固有値・固有関数
の固有値
を考える。固有関数を
とすると
である。両辺にさらに を左から作用させて、
式(1)より を用いると、左辺は
となる。したがって、 から
となる。固有値
に対して固有関数
と書くと、
一方、式(1)より の関係を用いて左辺を書き直すと
これより、 は偶関数(パリティが偶)、
は奇関数(パリティが奇)となる。任意の関数はこの2つの
で展開することができ、完全系をなす。
水素原子のハミルトニアンとの交換関係
水素原子のシュレディンガー方程式について、電子の受けるポテンシャルは原子からのクーロンポテンシャルのみで球対称になっている。したがって、ポテンシャルは の関数であり、角度によらないポテンシャルになる。
直交座標系で書いたハミルトニアンは、
となる。ここで、空間反転 について球対称ポテンシャルは以下のように形を変えない。
また、 などの部分について、
より、空間反転に対して不変である。したがって、上の は空間反転に対して不変である。極座標表示したハミルトニアンでも同様の結果になる。ハミルトニアンが空間反転に対して不変であるので、交換関係は
となる。
![Rendered by QuickLaTeX.com [{\hat{\mathcal P}},\hat{\mathcal H}]=0](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-96eda97e6d8febdcc36f57f42e943d87_l3.png)
まず
![Rendered by QuickLaTeX.com \hat{\mathcal H}](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-2d95a7d83744fee667dd6683ddb24138_l3.png)
![Rendered by QuickLaTeX.com \Psi({\bf r})](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-4b9b97e862348d50cd5cece2d4c786fe_l3.png)
![Rendered by QuickLaTeX.com \hat{\mathcal H}](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-2d95a7d83744fee667dd6683ddb24138_l3.png)
である。また、
![Rendered by QuickLaTeX.com {\hat{\mathcal P}} \Psi({\bf r})=\Psi(-{\bf r})](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-d6204a1391067e713cf5930e5ea59a63_l3.png)
となり、
![Rendered by QuickLaTeX.com [{\hat{\mathcal P}},\hat{\mathcal H}]=0](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-96eda97e6d8febdcc36f57f42e943d87_l3.png)
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が交換するため
と
は同時固有状態をもつ。
の固有状態は、水素原子における電子の波動関数
であり、動径波動関数
と球面調和関数
の積で表されていた。したがって、
の固有関数である
は
の固有関数でもある(同時固有状態)。よって
となる。波動関数のパリティ( が偶関数か奇関数か)によって固有値
が異なる。あとで示されるように
であり、パリティは量子数
のみ依存することがわかる。
に対応する
軌道、
軌道、
軌道はそれぞれ同じ
で指定される球面調和関数
の線形結合で表される。したがって、上のパリティはそのまま、
軌道のパリティに対応する。たとえば、
の
軌道,
軌道に対しては偶パリティで、
の
軌道,
軌道は奇パリティである。
球面調和関数のパリティ
最後に、 となることを示す。
の空間反転において、
より動径関数
は偶関数となる。これより
について に対する偶奇を調べる。まず、
となる。次にルジャンドル陪多項式 について考える。ルジャンドル多項式
はロドリゲスの公式より
と書ける。 を用いて
は
となる。 に対して、
となる。この結果と(2)より は
に対して
となる。これより