縮退のない場合の系で、演算子 と に関して重要なことがある。
演算子の交換関係 とは同時固有状態を持つ
上の関係は、行列の交換関係と同時固有関数と読み替えてもよい。量子力学の場合は、関数よりも広い概念として同時固有状態と呼んでいる。
1. 証明
→方向と←方向について証明する。
1.1 同時固有関数→可換
演算子 と が同時固有関数をもつ。その固有関数を 、固有値をそれぞれ 、とする。つまり、以下のような関係にある。
任意の波動関数 を で展開すると、
となる。は展開係数。を用いて証明できる。
1.2 可換→同時固有関数
適当な基底を用意すると演算子は行列表示が可能となる。
となるようなの固有関数 を基底として考える。この基底で、とを展開する。
演算子は適当な基底により行列表示が可能である。行列表示にすることで、計算が扱いやすくなる。
- はエルミートである 固有値は実数
- 縮退がない場合(異なるに対して)
のときに(*)が成立するための条件は以下の通りである。
- のとき、 であるので(*)は成立する(は0以外でも良い)
- のとき、であるので、
この条件を満たす は のとき以外は行列要素が0になった対角行列になっている。したがって、 を対角化するように用意した固有関数 によって、 も対角化されていることが示された(同時対角化されている)。つまり、 に対する の固有値を とすれば、
(1)
である。 , の同時固有関数であることをはっきりさせるために と書くこともある。
2. 同時固有関数(同時固有状態)を持つの意味
いつ同時固有状態が現れるのか、簡単に見ていこう。
2.1 例1:方位量子数と磁気量子数
量子力学にでてくる球面調和関数は、
方位量子数:
磁気量子数:
で表されているだろう。例えば状態は のようにとの値によって状態が指定されている。 と という値が、上の証明で扱った固有値 、に対応している。
磁気量子数 とは何だっただろうか。その正体は、方向のの値 であった。そして、教科書に出てくるような交換関係を思い出して欲しい。
となっていただろう。つまり、演算子 と に対して同時固有状態が存在するのである。また、これはのみでは状態を指定することができないことも表している。
によって、演算子 と に対して同時固有状態が存在する。
2.2 例2:ブロッホの定理
詳細な話は別の記事で書いたので参考にして欲しい。
固体物理における同時固有関数の例を見よう。シュレディンガー方程式、
の形は明らかに固有値方程式の形である。
結晶に周期性があり、ハミルトニアンの中にある が結晶格子と同じ並進対称性を持つ場合を考える。結晶格子の周期性に対応する格子ベクトル だけずらす並進移動の操作を とすると、
が成立する。したがって、 と は同時固有関数をもつ。固有関数をシュレディンガー方程式を満たす上記の とすれば、
となる固有値 がある。 回の並進移動の操作 や波動関数の規格化から
となる。ここで、波数ベクトルを とした。
によって、 と は同時固有関数をもつ
3. まとめ
意外とよく出でくる事項である。