ローラン展開例題シリーズその1。ローラン展開の基本を簡単な例題で学ぶ。ここで扱うのは初歩的な話と初歩的な例題である。厳密な説明、発展的な例題は教科書に載っているだろう。
次の関数 を与えられた点の周りでローラン展開せよ。
(1)
(2)
(3)
1. ローラン級数展開の定義
複素平面内の領域 で関数 が、点 を除いて正則であるときに次のようにローラン展開できる。
ここで展開係数 は、
である。 は 含む閉曲線(領域 内)。
実際、このまじめな式はあまり使わない(特に定期試験や院試などで)。
2. ローラン級数展開の概要
いつローラン展開?
ローラン展開は複素関数の特異点周りで展開する。特に複素積分を行う場合に有用である。一般に の形が複雑だったりすると、
にしておくと、 がわかりやすい。
なぜローラン展開?
テイラー展開と同様に、簡単な形に展開しておくと微分・積分が実行しやすくなる。とくに、複素積分は応用の上でも重要である。ここでは、ローラン展開による恩恵を少し書いておきたい。
下のような計算があったことを思い出そう。
なんとなく
のように展開すると の中に があって、積分の見通しがよくなる気がしないだろうか。例えば、
のようになる。さらに、ここで が出てきたのは留数定理のように見える。
※ 実際に は孤立特異点 の留数である。ローラン展開と留数定理の話については留数定理のところで扱いたい。(参考:例題で学ぶ:ローラン展開/極/留数定理(読了目安:15~30分))
ローラン展開とテイラー展開の違い
ざっくり違いを説明する。下は2変数の実関数 を表す。
図は実関数であるが、イメージとして似ている。テイラー展開は特異点でない 周りで展開する。例えば、 周りとかで。
- ローラン展開:ある特異点 周りで展開
- テイラー展開:ある正則な点 周りで展開
例えば、複素関数のテイラー展開は
もし右辺に、 などの分母に の形を含む項があれば、ローラン展開のように で特異点になっているはずである。
とすれば左辺の は正則であるため、そのような項はでないはず。
一方ローラン展開は が孤立特異点である。
とすると、 について左辺も右辺も特異的である。
2. 例題の解答
まじめな式はあまり使わない。ここでは級数を利用したローラン展開を示す。
(1) の解答
の 周りのローラン展開:
すでに は 周りでローラン展開されている。つまり、 で残りの展開係数 。
(2) の解答
の 周りのローラン展開:
ローラン展開する。コツは は素材のままで。
ここで、 における級数展開:
を用いた。
最後の答えは、 などで答えても良い。
(3) の解答
の 周りのローラン展開:
が素材である。基本的に の形を作るように変形する。
初めのうちは、 周りのローラン展開になるように などと置いて変形したほうがわかりやすいかもしれない。
3. まとめ
例題を通して、簡単なローラン展開を説明した。基本的にテストや院試で出題されるローラン展開の問題は級数展開を用いるのが良い。
ローラン展開の活躍の場は留数定理である。基本に慣れたら次は三角関数である。下の「ローラン展開例題シリーズその2」へ続く。