三次元の自由電子(ポテンシャル)のフェルミ球(とくに単純立法の場合)について書こう。
ここでは、自由電子のエネルギー固有値、逆格子点(点)の役割、フェルミ球を作りその中の状態数を求める。逆空間のイメージがつかめていなかった方でも、理解できるように解説していきたい。
1. 自由電子のエネルギー固有値
時間に依存しないシュレディンガー方程式は、 座標をとると、
のように書ける。このとき、自由電子はポテンシャルの影響を受けない()として、
となる。ここで、演算子 は
で表される。式(*)は、固有値方程式である。したがって、 とするのは間違いである。なぜなら、左辺は演算子、右辺は定数となっているからである。
式(*)は、の2階微分が再度 になる形であるので、微分方程式は容易に解けて、
で表される指数関数(三角関数)の形となる。ここで、は波動関数の規格化を満たすような積分定数である。この を式(*)に代入すると、
のように、に置き換わったように見える。式(*)との違いは、左辺の演算子 が実数の に置き換わったことである。したがって、今度は、
となる、3次元の自由電子のエネルギー の関係を得る。
2. 逆格子点(点)の役割
逆格子空間を定義すると、その格子点は を指定することになる。すなわち、逆格子点を選ぶことは、エネルギーを持った波動関数を選ぶことを意味する。
パウリの排他原理によれば、同じスピンを持つ電子は同じ状態を占有することができない。したがって、各逆格子点で指定される状態はスピン(と)の自由度を考慮して、2つの状態が存在する。
実空間の立方晶系の格子定数をとすると、逆格子点の間隔は で与えられる ( は周期境界条件により導入される)。したがって、格子点1個が逆格子空間で占める体積(図の立方体の体積)は となる。
立方体に格子点が8個もあるのが分かりにくいという方は、下の正方形を見て欲しい。正方形の面積は、青であろうが赤であろうが、同じである。
3. フェルミ球を作る
自由電子の場合、エネルギー は 式(**)で与えられた。絶対零度( K)では、エネルギーの小さい順に電子が状態を占めることがわかる。エネルギーは に比例するので、 の大きさの小さいものから逆格子空間(空間)の逆格子点を選んでいくと球に近くなる。
一番大きなエネルギー(フェルミエネルギー())を取る をフェルミ波数 と呼ぶ。 も逆格子点の上にあるので厳密な球にはならないが、 は逆格子点の間隔に比べて大きいのでほぼ球体となっている。すなわち、図のフェルミ球は立方体に比べて非常に大きい。
*本当に球に見えるか?については実際に計算してみるとわかる。例えば、Cuなどの格子定数と密度などから 、 程度である。
** 直感的にイメージするためには、1モルの1価金属あたり 個の電子があるので、 分のレゴブロックで球を作ってやれば良い。
4. フェルミ球の中にある状態の数(単純立方)
1つの逆格子点(点)はスピンを考慮して、2つの状態を占めることを説明した。すなわち、立方晶の場合、2つの状態は逆格子空間で、
の体積を占める。また、フェルミ球の体積は、
で与えられる。 求めるフェルミ球内の状態数 は「フェルミ球に詰められる立方体の数の2倍」と同じである。つまり、(2)を(1)で除して2倍(スピンの自由度)すればよく、
となる。フェルミ波数 はフェルミエネルギーを用いて、
である。 これを式(3)へ代入して、
となる。これにより、3次元の自由電子についてフェルミエネルギーの状態数 はフェルミエネルギーに比例するという重要な結果を得た。いま、フェルミ半径のフェルミ球を考えたが、任意のエネルギー(または任意の波数)についても同様に、
となることが確認される。この関係から、容易に、
となることがわかる。これより3次元の自由電子については状態密度がエネルギーの1/2乗に比例することがわかる。