自由電子のフェルミ球/3次元の状態密度


三次元の自由電子(ポテンシャルV=0)のフェルミ球(とくに単純立法の場合)について書こう。

 ここでは、自由電子のエネルギー固有値、逆格子点(k点)の役割、フェルミ球を作りその中の状態数を求める。逆空間のイメージがつかめていなかった方でも、理解できるように解説していきたい。


1. 自由電子のエネルギー固有値

 時間に依存しないシュレディンガー方程式は、{\bf r}=(x,y,z) 座標をとると、

    \begin{eqnarray*}H\Phi({\bf r}) = \bigl[ -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V({\bf r}) \bigr] \Phi({\bf r})= E\Phi({\bf r})\end{eqnarray*}

 

のように書ける。このとき、自由電子はポテンシャルの影響を受けない(V({\bf r})=0)として、

    \begin{eqnarray*} -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \Phi({\bf r})= E\Phi({\bf r}) \quad\cdots (*)\end{eqnarray*}

となる。ここで、演算子 \nabla^2

    \begin{eqnarray*}\Delta\equiv\nabla^2=\frac{\partial^2}{\partial^2 x} + \frac{\partial^2}{\partial^2 y} +\frac{\partial^2}{\partial^2 z}\end{eqnarray*}

 

で表される。式(*)は、固有値方程式である。したがって、-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2=E とするのは間違いである。なぜなら、左辺は演算子、右辺は定数となっているからである。

 式(*)は、\Phiの2階微分が再度 \Phi になる形であるので、微分方程式は容易に解けて、

    \begin{eqnarray*}\Phi({\bf r})&=&Ae^{i{\bf k}\cdot{\bf r}} + Be^{-i{\bf k}\cdot{\bf r}}\\\bigl( &=& A'{\rm sin}({\bf k}\cdot{\bf r})+B'{\rm cos}({\bf k}\cdot{\bf r}) \bigr)\end{eqnarray*}

で表される指数関数(三角関数)の形となる。ここで、A, B(A', B')は波動関数の規格化を満たすような積分定数である。この \Phi を式(*)に代入すると、

    \begin{eqnarray*} -\frac{\hbar^2}{2m}{\bf k}^2 \Phi({\bf r})= E\Phi({\bf r}) \end{eqnarray*}

のように、\nabla\rightarrow{\bf k}に置き換わったように見える。式(*)との違いは、左辺の演算子 \nabla が実数の {\bf k} に置き換わったことである。したがって、今度は、

3次元自由電子のエネルギー分散関係 E({\bf k})

    \begin{eqnarray*}E({\bf k}) = \frac{\hbar^2}{2m} {\bf k}^2 \quad \cdots (**)\end{eqnarray*}

となる、3次元の自由電子のエネルギー E({\bf k}) の関係を得る。


2. 逆格子点(k点)の役割

 逆格子空間を定義すると、その格子点は {\bf k} を指定することになる。すなわち、逆格子点を選ぶことは、エネルギーE({\bf k})を持った波動関数\Phi_{\bf k}({\bf r})を選ぶことを意味する。

 パウリの排他原理によれば、同じスピンを持つ電子は同じ状態を占有することができない。したがって、各逆格子点で指定される状態はスピン(\uparrow\downarrow)の自由度を考慮して、2つの状態が存在する。

k-space_energy

 実空間の立方晶系の格子定数をaとすると、逆格子点の間隔は 2\pi/L\,(L=Na) で与えられる (L周期境界条件により導入される)。したがって、格子点1個が逆格子空間で占める体積(図の立方体の体積)は (2\pi/L)^3 となる。

 立方体に格子点が8個もあるのが分かりにくいという方は、下の正方形を見て欲しい。正方形の面積は、青であろうが赤であろうが、同じである。 



3. フェルミ球を作る

 自由電子の場合、エネルギー E{\bf k}は 式(**)で与えられた。絶対零度(T=0 K)では、エネルギーの小さい順に電子が状態を占めることがわかる。エネルギーは {\bf k}^2 に比例するので、{\bf k} の大きさ|{\bf k}|の小さいものから逆格子空間(k空間)の逆格子点を選んでいくと球に近くなる。

 
fermi_surface

 一番大きなエネルギー(フェルミエネルギー(E_F))を取る \bf k をフェルミ波数 {\bf k}_{F}と呼ぶ。{\bf k}_{F} も逆格子点の上にあるので厳密な球にはならないが、{\bf k}_{F} は逆格子点の間隔に比べて大きいのでほぼ球体となっている。すなわち、図のフェルミ球は立方体に比べて非常に大きい。


*本当に球に見えるか?については実際に計算してみるとわかる。例えば、Cuなどの格子定数と密度などから 2\pi/L\sim 10^{-8} \AA^{-1}|{\bf k}_F|\sim 1 \AA 程度である。

** 直感的にイメージするためには、1モルの1価金属あたり N_A=6\times 10^{23} 個の電子があるので、N_A 分のレゴブロックで球を作ってやれば良い。



4. フェルミ球の中にある状態の数(単純立方)

1つの逆格子点({\bf k}点)はスピンを考慮して、2つの状態を占めることを説明した。すなわち、立方晶の場合、2つの状態は逆格子空間で、

    \begin{eqnarray*}\bigl(\frac{2\pi}{L} \bigr)^3 \quad\cdots (1)\end{eqnarray*}

の体積を占める。また、フェルミ球の体積は、

    \begin{eqnarray*}\frac{4}{3}\pi {\bf k}_F^3 \quad\cdots(2)\end{eqnarray*}

 

で与えられる。 求めるフェルミ球内の状態数 N(E_F)は「フェルミ球に詰められる立方体の数の2倍」と同じである。つまり、(2)を(1)で除して2倍(スピンの自由度)すればよく、

    \begin{eqnarray*}N(E_F) = 2\frac{\frac{4}{3}\pi {\bf k}_F^3 }{\bigl(\frac{2\pi}{L}\bigr)^3 }= \frac{L^3}{3\pi^2}{\bf k}_F\quad\cdots (3)\end{eqnarray*}

 

となる。フェルミ波数 {\bf k}_FはフェルミエネルギーE_Fを用いて、 

    \begin{eqnarray*}E_F &=& \frac{\hbar^2}{2m}{\bf k}_F^2\\\leftrightarrow {\bf k}_F &=& \sqrt{ \frac{2mE_F}{\hbar^2}    }\end{eqnarray*}

 

である。 これを式(3)へ代入して、

    \begin{eqnarray*}N(E_F) &=& \frac{L^3}{3\pi^2} \bigl(\frac{2mE_F}{\hbar^2}\bigr)^{\frac{3}{2}}\\\\&\propto& E_F^{\frac{3}{2}} \end{eqnarray*}

 

となる。これにより、3次元の自由電子についてフェルミエネルギーの状態数 N(E_F) はフェルミエネルギーE_F^{\frac{3}{2}}に比例するという重要な結果を得た。いま、フェルミ半径{\bf k}_Fのフェルミ球を考えたが、任意のエネルギー(または任意の波数{\bf k})についても同様に、

    \begin{eqnarray*}N(E) &\propto& E^{\frac{3}{2}} \end{eqnarray*}

 

となることが確認される。この関係から、容易に、

3次元で自由電子のエネルギーと状態密度の関係

    \begin{eqnarray*} D(E)\equiv\frac{d N(E)}{dE} &\propto& E^{\frac{1}{2}} \end{eqnarray*}

 

となることがわかる。これより3次元の自由電子については状態密度がエネルギーの1/2乗に比例することがわかる。




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