フェルミ・ディラック分布関数(フェルミ分布関数)の導出には、フェルミ粒子の統計性を反映したパウリの排他原理を用いる。 すなわち、「2つの粒子は同一の状態を取らない」という性質を用いて、状態の数を求めていく。 導出するフェルミ分布関数は以下の通りである。
フェルミ分布関数の導出
前提:あるエネルギーにある状態の数
自由電子模型を例にすると、シュレディンガー方程式からエネルギー固有値は
で与えられていた。 このとき、同じエネルギー値をとる状態は複数通りあることがわかる。 要するに、 の値が同じでも、 の組はいくつかある。
また、パウリの排他原理によると、2つの電子が同一の状態にあることはない。 スピンを で区別すると、状態 にある電子の数は0か1(占有か非占有か)である。
状態の数を求める
離散化されたエネルギー準位を、エネルギーの低い順に () とする。 そこで、あるエネルギー にある状態数 とし、そのうち () 個の状態が占有されているとする。 このとき、「占有のしかたの総数 」を求めよう。
図のように、 を求める問題は組み合わせの問題である。 ( 個の座席に、人を 個だけ着席させた状態の総数)
これが 番目のエネルギーにある状態数である。 についての総乗が、全てのエネルギーを考えたときの「占有のしかたの総数 」 である。
エントロピーを最大にする
総数 がわかるとボルツマンの原理よりエントロピー がわかる。
ここで、 はボルツマン定数である。 熱力学によると、系が熱平衡状態にあるときエントロピー は最大になる(非平衡であれば は増大する)。 は単調増加関数であるため、 を最大化するためには (あるいは ) を最大化すれば良い。
* 何の条件もなかったら総数 を大きくするためには、とにかくエネルギーを大きく、座席の数 () を増やしまくれば良い。 そして、着席させる人の数 () も増やしていけば良い。しかし、これは現実的ではない。 そこで、全エネルギーを固定し、粒子数を一定にするという条件が必要になる。 つまり、次に示すような束縛条件のもと、 を最大化していく。
** が一定のとき、 を の関数とみると上に凸の関数になる。 たとえば、6個の座席に対して、 として を計算してみると良い( が一番大きい)。
ラグランジュの未定乗数法を用いる
全粒子数 一定、全エネルギー 一定の条件
を課して、 を最大化する。 そのためにラグランジュの未定乗数法で求めていく。
2つのラグランジュの未定乗数を と置いて、
を最大にする。
に関して上に凸の関数であるため、この条件で最大値を求めることができる。
ここで、スターリングの公式を用いて を近似しておく。
スターリングの公式は以下の通りである。が十分大きい時、
と近似できる。
これを用いて を簡単にする。
したがって、式(1)の偏微分は
( の項の偏微分の計算については補足に記載)
よって、
となる。これは考えているエネルギー にある状態数 に対して、粒子数 だけ占有している場合の確率を表す。
を連続変数として扱えば、
がフェルミ分布関数となる。 あとは、ラグランジュの未定乗数であった が何者であるか、である。
補足[1]: に関する偏微分のところを簡単に書いておく。
について、 における はダミーであるので、本当は
とすべきであった。そうすると、
であるため、
になる。
熱力学の式から乗数を求める
熱力学で現れる関係式から、ラグランジュの未定乗数 を求める。 エントロピーを 、内部エネルギーを 、化学ポテンシャルを 、粒子数を とすると、
の関係がある。体積一定とすると、
である。
一方、)の に対する変分をゼロとして、
となる( は一定なので消えている)。 これを の形に書くと、
となる。式(3)’と比較すると、
となる。
この を用いて、式(2)からフェルミ分布関数がわかる。
ここでは ではなく、温度に依存するフェルミエネルギー で表している。