プランク分布関数の導出・計算


以下のプランク(Planck)分布関数を導出・計算していく。

ポイント


    \begin{eqnarray*} \braket{n}=\frac{1}{\exp\left(\beta \hbar \omega \right)-1}\quad\left(\beta\equiv\frac{1}{k_{\rm B}T}\right) \end{eqnarray*}


\beta は逆温度、k_{\rm B} はボルツマン定数で、\omega は調和振動子の周波数である(\hbar \omega でエネルギー単位に)。

 n は調和振動子の個数であり、その平均値はプランク分布関数で表されていることを意味している。 導出過程の途中式は省略せずに書いたので、全員が導出できるはずである(もしできなかったら、完全にこちらの責任)。


予備知識

 導出にあたって最低限の予備知識をまとめておく。 以下で \beta\equiv\frac{1}{k_{\rm B}T} である。


調和振動子のエネルギー

調和振動子のエネルギーは

    \begin{eqnarray*} E_n=\left(n+\frac{1}{2}\right)\hbar \omega \end{eqnarray*}

で表される。 ざっくり言ってバネの振動を思い浮かべれば良いが、ここでは波(振動子)を粒子として扱い、n 個の粒子があると見る。 また、\frac{1}{2} はゼロ点振動になっており、n=0 の状態でもエネルギーがゼロにならないことを表す。


分配関数Z

分配関数の簡単な説明は『【分配関数】Zの意味など』 に書いた。分布関数を求める上でも重要なので確認しておきたい。

エネルギー E_n にある状態(振動子が n 個ある状態)をとりうる確率は

    \begin{eqnarray*} \exp\left(-\frac{E_n}{k_{\rm B}T}\right)=\exp(-\beta E_n) \end{eqnarray*}

比例する。 これは状態の詳細(位置や速度の情報)が異なっても、エネルギーが同じであればその状態にある確率は同じであることを意味する。 \exp(-\beta E_n) は相対的な確率であるため、確率の和を1に規格化するという意味合いで分配関数 Z

    \begin{eqnarray*} Z=\sum_n \exp(-\beta E_n) \end{eqnarray*}

とする^{[*]}。 これにより、エネルギー E_n にある状態をとりうる確率は

    \begin{eqnarray*} P(E_n)=\frac{1}{Z}\exp(-\beta E_n) \quad \blacksquare \end{eqnarray*}

となる。


*もう少し統計力学の意味で Z を考える必要もあるが、ここでは省略する。熱力学量との関連などについては別にまとめていきたい。


プランク分布関数の導出・計算

 振動子の個数を n 個とすると n の期待値 \braket{n} は、

    \begin{eqnarray*} \braket{n}=\sum_n nP(E_n)\quad (*) \end{eqnarray*}

ここで、E_n は調和振動子のエネルギーで、

    \begin{eqnarray*} E_n=\left(n+\frac{1}{2}\right)\hbar \omega \end{eqnarray*}

である。

  (*)の右辺を計算していく。 (\sum が分母と分子に現れるので、分母の Z を求める \sum のほうは n の代わりに m としている。混乱しなければ n でも良い。)

    \begin{eqnarray*} \sum_n nP(E_n) &=&\sum_n \frac{n \exp(-\beta E_n)}{Z}\\ &=&\frac{1}{\textcolor{red}{Z}}\sum_n n\exp(-\beta E_n)\\ &=&\frac{\sum_n n\exp(-\beta E_n)}{\textcolor{red}{\sum_m \exp(-\beta E_m)}}\\ &=&\frac{\sum_n n\exp\left(-\beta \left[n+\frac{1}{2}\right]\hbar \omega\right)}{\sum_m \exp\left(-\beta \left[m+\frac{1}{2}\right]\hbar \omega\right)}\\ &=&\frac{\cancel{\exp\left(\frac{1}{2}\hbar \omega\right)}\sum_n n\exp\left(-\beta n\hbar \omega\right)}{\cancel{\exp\left(\frac{1}{2}\hbar \omega\right)}\sum_m \exp\left(-\beta m\hbar \omega\right)}\\ &=& \frac{\sum_n n\exp(-n \beta \hbar \omega)}{\sum_m \exp(-m \beta \hbar \omega)}\quad(*)' \end{eqnarray*}

 最後の式を簡単にしていく。分子と分母の \sum の中身の違いは \exp の前に n (m) があるかないかの違いである。 ここで、分母の式を \beta で微分してやると n (m) があらわれることに注目する。 すなわち、余分な係数を調整して、

    \begin{eqnarray*} -\frac{1}{\hbar \omega}\frac{\partial }{\partial \beta}\left[\sum_m \exp(-m \beta \hbar \omega)\right] &=&\sum_m m\exp(-m\beta \hbar \omega)\\ &=&\sum_n n\exp(-n\beta \hbar \omega) \end{eqnarray*}

となることを利用する。 よって、分母を

    \begin{eqnarray*} f(\beta)\equiv\sum_m \exp(-m \beta \hbar \omega) \end{eqnarray*}

とおけば式(*)’は

    \begin{eqnarray*} \frac{-\frac{1}{\hbar \omega}f'(\beta)}{f(\beta)} &=& -\frac{1}{\hbar \omega}\frac{f'(\beta)}{f(\beta)}\\ &=&-\frac{1}{\hbar\omega}\frac{\partial }{\partial \beta }\ln f(\beta) \end{eqnarray*}


となる(この \ln f\ln Z を微分する形はよく出るので覚えておく)。

 結局、f(\beta) ((*)’の分母)を簡単にして、自然対数をとり\betaで微分すれば \braket{n} を得ることがわかる。 f(\beta) は無限等比級数であるため、

    \begin{eqnarray*} f(\beta)&=&\sum_n \exp(-n \beta \hbar \omega)\\ &=&\exp(0)+\exp(-\beta \hbar\omega)+\exp(-2\beta\hbar \omega)+\cdots\\ &=&\frac{1}{1-\exp(-\beta \hbar \omega)} \end{eqnarray*}

したがって、自然対数をとって微分すると

    \begin{eqnarray*} -\frac{1}{\hbar\omega}\frac{\partial }{\partial \beta }\ln \left[\textcolor{red}{\frac{1}{1-\exp(-\beta \hbar \omega)}}\right] &=&\frac{1}{\hbar\omega}\frac{\partial}{\partial \beta}\ln\left[ 1-\exp(-\beta \hbar \omega) \right]\\ &=&\frac{1}{\cancel{\hbar\omega}}\frac{-(-\cancel{\hbar \omega})\exp(-\beta \hbar \omega)}{1-\exp(-\beta \hbar \omega)}\\ &=&\frac{\exp(-\beta \hbar \omega)}{1-\exp(-\beta \hbar \omega)}\\ &=&\frac{1}{\exp(\textcolor{red}{+}\beta \hbar \omega)-1}\quad \blacksquare \end{eqnarray*}

となる。最後の行への変形では、分母・分子に \exp(\textcolor{red}{+}\beta\hbar \omega) をかけている。


 格子振動や光波などのエネルギーは、調和振動子の \hbar \omega で量子化されたエネルギー E_n で表すことができる。 したがって、格子振動を量子化したフォノンの数 n はプランク分布関数 \braket{n} にしたがう。 フォノンの個数の平均値がわかれば、それからフォノンのエネルギーの期待値 \braket{E} などを計算することができ、格子振動の比熱なども計算できるようになる。



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