行列やベクトルをその 行、 列成分( 成分)で表すことがある。たとえば、 行列 について
と書かずに、 とだけ書く。数式の見かけがすっきりするためよく使われ、いくつかの関係式の証明にも便利である。ここでは、ベクトルや行列を単に成分で書いて、行列の積などについてまとめておく。
目次
成分で表示
考えるベクトルの成分 や行列の成分 は複素数 とする。実数の成分を考える場合は複素共役をとるときに注意すれば良い。 * など太字はベクトルを表す。
n次ベクトル
次の(縦)ベクトルは
である。このベクトルを
と略記する。
n×m行列
行列
について、
と略記する。
行列を列ベクトルで表示
上の行列は
を並べて
と書ける。これより、
である( は列ベクトル の 成分)。
重要な関係式と成分表示
行列の和の成分
行列 に対して、 もまた 行列になる。
である。これを成分で書くと、
行列の積の成分
行列 と 行列 との積 を考える。 は 行列になる。
これより、 を具体的に書くと
行列の積の形はよく出てくる。とくに 行列 の積 についての以下の形をよく使う。
は を取るためのダミーの変数で、 でも何でも良い。
転置行列
転置行列は、行列の行と列を入れ替えて作る。 行列
の転置行列は
となる。成分で表すと
行列の積の転置
行列 と 行列 の積 ( 行列)について転置を取る。このとき、以下が成り立つ。
の行列の積を成分で表して転置をとる。 成分は
である。よって、
* は複素数の積なので順序を入れ替えても良い。
随伴行列(エルミート共役)
の随伴行列 (読み:エーダガー)は、 の行列の転置をとり複素共役をとることで作られる。 の複素共役をとった後に転置をとっても良い。 を のエルミート共役とも呼ぶ。
つまり、定義:
具体的に書くと、 行列
の随伴行列は
である。成分で書くと、
とくに となる、すなわち随伴行列が自分自身に一致する行列のことをエルミート行列と呼ぶ。
トレース(跡): TrA
次正方行列 に対し、対角成分の和をとることを「行列 のトレースをとる」と言う。
のトレース は
は を取るためのダミーで記号は などでも良い。 はクロネッカーのデルタで、
行列の積のトレース: Tr(AB)=Tr(BA)
上で見たように、 行列の 積 ( 行列)について、
であった。したがって、上の を参考に として
これから、 がわかる。
* 積 は単なる複素数の積なので入れ替えても良い。
ベクトルの内積
次元列ベクトル を考える。
実ベクトルの内積
の成分がすべて実数のときを考える(実ベクトル)。 内積 は
また内積は、行ベクトル と列ベクトル の積(行列同士の積)でも書ける。行ベクトルは列ベクトルの転置を取ることでできる。
は 行列、 は 行列とも考えれる。このとき、 と は行列として扱うので、行列の内積 のように ではない。
複素ベクトルの内積
次にベクトルの成分が複素数の場合を考える。このとき、内積は 内積 は
である。また、列ベクトル を 行列と見たときの随伴行列 を用いて