ベクトル解析における「勾配(gradient)」は回転(rot)や発散(div)に比べてわかりやすいと思う。 そのことを平面と身近な例から種明かししていこう。 読み終わる頃には、なぜベクトルか、なぜ勾配と呼ばれるかがスッと理解できるはずである。
![]()
* 3変数だったら
の成分を追加する。4変数以上の場合も同様である。
目次
1. 数学をする前に:坂道と勾配のイメージ
微分やら何やらを扱う前に、まず身近な例として坂道を考え、勾配のイメージを身につける。
なぜベクトルになるか
坂道の前にいる人にとって、その坂道の勾配はもっとも急な方向を意味するはずだ。

今、絵では
軸方向を任意にとった。 この絵でいう坂道の勾配は、青色の
方向や
方向に沿って考えないことは簡単にわかるだろう。 つまり、最も急な傾き(勾配の方向)は
軸や
軸方向にあるとは限らない。
というわけで、勾配は
平面内のある方向を向いており、「
方向にどれだけ傾いているか」と「
方向にどれだけ傾いているか」によって決定される。
したがって、勾配はその方向を示すためにベクトル量となる。
まとめると、勾配とは「どの方向にどれだけの大きさ傾いているか」を表すベクトルである。
2. 1変数と2変数(直線と平面)
次に数学的な話をしよう。平面に入る前にもっと簡単な直線から微分の意味を考えていこう。
直線の傾きと微分
まず直線の傾きを考えよう。例えば
![]()
の傾きは 3 である。これは、
![]()
となり、
は
の
における接線の傾きに対応するためである。 直線なので
の値にかかわらず接線の傾きは 3 である。

このことを基本にして、平面の傾きである「勾配」を求めていく。
ある方向の平面の傾きと偏微分
例として説明するため、平面の式を与えておく。
![]()
これは
で
なので原点を通る平面の式になる。
この平面をある面で縦にスパッと切れば直線になる。 ここでは、
など
を固定して、
平面に平行に切ろう。

すると図の右のように直線になる。直線なので傾きは容易に求めることができる。 つまりは、
を
で偏微分すれば良い。 ここでいう「偏微分」とは
を固定して
だけで関数を微分するという意味である。
は定数であるとして普通に微分すれば良い。
![]()
次に、
など
を固定して、
平面に平行に切ろう。

同じようにして、直線の傾きは
を
で偏微分したものとなる。
![]()
それぞれの偏微分は、坂道の勾配の大きさを表すものではない。 それぞれの偏微分は、それぞれの方向に向かって進んだ時の傾きを表す。 つまり、
- 坂道を
方向に
進めば
だけ登る - 坂道を
方向に
進めば
だけ登る
ということである。また、この結果は
方向より
方向に登ったほうが急であることを表す。
勾配の表し方
先に答えを書くと、この例の平面の勾配は
![]()
となる。偏微分したものを並べてベクトルを作れば良い。
一般には

である。
平面の勾配の大きさは上のベクトルの大きさに等しく、
![]()
となる。これは
- 坂道を最も急な方向に
だけ進めば
だけ登る
ということを意味する。
3. 平面の変化率からみる勾配
上の式でなぜ偏微分が現れたのかを説明していこう。 直線の場合は、傾きは
![]()
であった。
で接線の傾きになる。 平面の場合も同様に表すことができるということを示す。
以下では、ベクトル量である関数
の勾配(gradient)の
- ベクトルの大きさ
- ベクトルの方向
について考えていく。ここからは数式が多くなる。
平面の変化率と勾配の大きさ
2変数の場合:
まず
を固定して
だけでテイラー展開する。
の項は無視する。
![]()
次に
についてテイラー展開する。
![Rendered by QuickLaTeX.com \begin{eqnarray*} \frac{\partial f(x,y+\Delta y)}{\partial x}\,\Delta x+f(x,y+\Delta y)-f(x,y) &\simeq& \left[\frac{\partial^2 f(x,y)}{\partial x\partial y}\, \Delta y + \frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\right]\Delta x\\ &&\quad +\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\,\Delta y +\cancel{f(x,y)}-\cancel{f(x,y)}\\\\ &\simeq& \cancel{\frac{\partial^2 f(x,y)}{\partial x\partial y}\,\Delta x\Delta y} +\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\,\Delta x +\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\,\Delta y \end{eqnarray*}](https://batapara.com/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-21353f7237a5b6dec488339eb5009344_l3.png)
最後の行で、2次以上の微小項は無視した。 また最後の行を2つのベクトルの内積の形に表すと

結局、
![]()
であり、
の極限で
![]()
となる。
この式は、平面で
だけ変化したときに、
が
だけ変化するということを表す。すなわち、勾配である。このことは、直線に関して
だけ変化した時に
が、傾きに対応する
だけ変化することと同じように理解できる。
平面の最も急な向き
最後に、平面の最も急な向きがどのように決まるか説明する。 上のベクトルの内積を定義を用いて別の形で表す。 そのため、2ベクトル
と
のなす角を
として

どの方向に動くかは、
によって指定される。また左辺の
は平面で決まる正の定数である。したがって、左辺は考えている方向に
だけ動く時の傾きを表す。この値を最大にするためには
を最大にする、つまり、
を
の方向にとれば傾きは最大になる。
この
が勾配ベクトルの方向である。そして、勾配ベクトルの大きさは
である。
3. 1変数と2変数(放物線)
直線と平面では微分した値は定数となった。 これは傾きや勾配が、至る所で一定であるという意味だ。
より一般的な場合を考えるために、放物線を例にとろう。 1変数関数
のある点
での微分は、図のように接線の傾きに対応する。

2変数関数の場合は、接平面になり、
が接平面の傾き(勾配の大きさ)に対応する。

前の項で説明したように、接平面の勾配の方向は
ベクトルの方向にある。 この話は放物線でなくても成り立つ。 与えられた曲面
に対して、接平面を考えていけばよい。
5. まとめ
勾配は、

で表される。勾配がベクトルであるのは、坂道を登る方向が必要だからである。
ここでは数学的な記述を用いて勾配の意味を説明した。 そういう意味で、「勾配が何に使えるか」には触れていない。 つぎは、勾配のイメージがわかるような内容に触れていく。