【ベクトル解析】わかりやすい平面から学ぶ勾配 ∇f(x,y) の意味 (gradient)


 ベクトル解析における「勾配(gradient)」は回転(rot)や発散(div)に比べてわかりやすいと思う。 そのことを平面と身近な例から種明かししていこう。 読み終わる頃には、なぜベクトルか、なぜ勾配と呼ばれるかがスッと理解できるはずである。

ポイント

    \begin{eqnarray*} \nabla f(x,y)=\left(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y}\right) \end{eqnarray*}

* 3変数だったら \frac{\partial f}{\partial z} の成分を追加する。4変数以上の場合も同様である。




1. 数学をする前に:坂道と勾配のイメージ

 微分やら何やらを扱う前に、まず身近な例として坂道を考え、勾配のイメージを身につける。

なぜベクトルになるか

 坂道の前にいる人にとって、その坂道の勾配はもっとも急な方向を意味するはずだ。

 今、絵では x,y 軸方向を任意にとった。 この絵でいう坂道の勾配は、青色の x 方向や y 方向に沿って考えないことは簡単にわかるだろう。 つまり、最も急な傾き(勾配の方向)は x 軸や y 軸方向にあるとは限らない。


というわけで、勾配は x,y 平面内のある方向を向いており、「x 方向にどれだけ傾いているか」と「y 方向にどれだけ傾いているか」によって決定される。 したがって、勾配はその方向を示すためにベクトル量となる。

 まとめると、勾配とは「どの方向にどれだけの大きさ傾いているか」を表すベクトルである。


2. 1変数と2変数(直線と平面)

 次に数学的な話をしよう。平面に入る前にもっと簡単な直線から微分の意味を考えていこう。


直線の傾きと微分

 まず直線の傾きを考えよう。例えば

    \begin{eqnarray*} y=f(x)=3x+4 \end{eqnarray*}

の傾きは 3 である。これは、

    \begin{eqnarray*} y'=f'(x)=\frac{d f(x)}{dx}=\textcolor{red}{3} \end{eqnarray*}

となり、 f'(x)f(x)x における接線の傾きに対応するためである。 直線なので x の値にかかわらず接線の傾きは 3 である。


 このことを基本にして、平面の傾きである「勾配」を求めていく。


ある方向の平面の傾きと偏微分

 例として説明するため、平面の式を与えておく。

    \begin{eqnarray*} z=f(x,y)=2x+3y \end{eqnarray*}

 これは(x,y)=(0,0)z=0 なので原点を通る平面の式になる。


 この平面をある面で縦にスパッと切れば直線になる。 ここでは、y=1 など y固定してxz 平面に平行に切ろう。

 すると図の右のように直線になる。直線なので傾きは容易に求めることができる。 つまりは、z=f(x,y)x で偏微分すれば良い。 ここでいう「偏微分」とは y を固定して x だけで関数を微分するという意味である。 y は定数であるとして普通に微分すれば良い。

    \begin{eqnarray*} \frac{\partial f(x,y)}{\partial x}=\textcolor{blue}{2} \end{eqnarray*}


次に、x=1 など x固定してyz 平面に平行に切ろう。

同じようにして、直線の傾きは z=f(x,y)y で偏微分したものとなる。

    \begin{eqnarray*} \frac{\partial f(x,y)}{\partial y}=\textcolor{red}{3} \end{eqnarray*}


 それぞれの偏微分は、坂道の勾配の大きさを表すものではない。 それぞれの偏微分は、それぞれの方向に向かって進んだ時の傾きを表す。 つまり、

  • 坂道を x 方向に 1 進めば \textcolor{blue}{2} だけ登る
  • 坂道を y 方向に 1 進めば \textcolor{red}{3} だけ登る

ということである。また、この結果は x 方向より y 方向に登ったほうが急であることを表す。


勾配の表し方

 先に答えを書くと、この例の平面の勾配は

    \begin{eqnarray*} \nabla f(x,y)=\left(\begin{array}{c} 3\\2\end{array}\right) \end{eqnarray*}

となる。偏微分したものを並べてベクトルを作れば良い。


一般には

    \begin{eqnarray*} \nabla f(x,y)=\left(\begin{array}{c} \frac{\partial f}{\partial x}\\\\\frac{\partial f}{\partial y}\end{array}\right) \end{eqnarray*}

である。


平面の勾配の大きさは上のベクトルの大きさに等しく、

    \begin{eqnarray*} \sqrt{2^2+3^2}=\sqrt{13} \end{eqnarray*}

となる。これは

  • 坂道を最も急な方向1 だけ進めば \sqrt{13} だけ登る

ということを意味する。



3. 平面の変化率からみる勾配

 上の式でなぜ偏微分が現れたのかを説明していこう。 直線の場合は、傾きは

    \begin{eqnarray*} f'(x)=\frac{df(x)}{dx}\simeq \frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x} \end{eqnarray*}

であった。\Delta\to 0 で接線の傾きになる。 平面の場合も同様に表すことができるということを示す。


以下では、ベクトル量である関数 f の勾配(gradient)の

  • ベクトルの大きさ
  • ベクトルの方向

について考えていく。ここからは数式が多くなる。


平面の変化率と勾配の大きさ

 2変数の場合:

まずyを固定して x だけでテイラー展開する。\Delta x^2 の項は無視する。

    \begin{eqnarray*} \Delta f\equiv f(x+\Delta x,y+\Delta y)-f(x,y) &\simeq& \frac{\partial f(x,y+\Delta y)}{\partial x}\,\Delta x+f(x,y+\Delta y)-f(x,y) \end{eqnarray*}


次に y についてテイラー展開する。

    \begin{eqnarray*} \frac{\partial f(x,y+\Delta y)}{\partial x}\,\Delta x+f(x,y+\Delta y)-f(x,y) &\simeq& \left[\frac{\partial^2 f(x,y)}{\partial x\partial y}\, \Delta y + \frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\right]\Delta x\\ &&\quad +\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\,\Delta y +\cancel{f(x,y)}-\cancel{f(x,y)}\\\\ &\simeq& \cancel{\frac{\partial^2 f(x,y)}{\partial x\partial y}\,\Delta x\Delta y} +\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\,\Delta x +\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\,\Delta y \end{eqnarray*}


 最後の行で、2次以上の微小項は無視した。 また最後の行を2つのベクトルの内積の形に表すと

    \begin{eqnarray*} \frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\,\Delta x +\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\,\Delta y &=&\left(\begin{array}{c}\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}\\\\ \frac{\partial f(x,y)}{\partial y}\end{array}\right) \cdot\left(\begin{array}{c} \Delta x\\\\\Delta y \end{array}\right)\\\\ &=& \nabla f(x,y)\cdot\left(\begin{array}{c} \Delta x\\\\\Delta y \end{array}\right)\\\\ &=& \nabla f(x,y)\cdot \Delta{\bf r} \end{eqnarray*}


結局、

    \begin{eqnarray*} \Delta f(x,y)=\nabla f(x,y)\cdot \Delta{\bf r} \end{eqnarray*}

であり、\Delta r \to 0 の極限で

    \begin{eqnarray*} df(x,y)=\nabla f(x,y) \cdot d{\bf r} \end{eqnarray*}

となる。


この式は、平面で d{\bf r} だけ変化したときに、f({\bf r})=f(x,y)\nabla f(x,y) だけ変化するということを表す。すなわち、勾配である。このことは、直線に関して dx だけ変化した時に y=f(x) が、傾きに対応する f'(x) だけ変化することと同じように理解できる。


平面の最も急な向き

 最後に、平面の最も急な向きがどのように決まるか説明する。 上のベクトルの内積を定義を用いて別の形で表す。 そのため、2ベクトル \nabla f\Delta{\bf r}=(\Delta x,\Delta y) のなす角を \theta として

    \begin{eqnarray*} \Delta f(x,y)&=&|\nabla f|\,|\Delta{\bf r}| \,\cos \theta\\\\ \frac{\Delta f(x,y)}{|\Delta {\bf f}|}&=&|\nabla f|\cos \theta \end{eqnarray*}


どの方向に動くかは、\Delta {\bf r} によって指定される。また左辺の |\nabla f| は平面で決まる正の定数である。したがって、左辺は考えている方向に |\Delta{\bf r}| だけ動く時の傾きを表す。この値を最大にするためには \cos を最大にする、つまり、\Delta{\bf r}\nabla f の方向にとれば傾きは最大になる。

 この \Delta {\bf r} が勾配ベクトルの方向である。そして、勾配ベクトルの大きさは |\nabla f| である。


3. 1変数と2変数(放物線)

 直線と平面では微分した値は定数となった。 これは傾きや勾配が、至る所で一定であるという意味だ。


 より一般的な場合を考えるために、放物線を例にとろう。 1変数関数 f(x) のある点 x での微分は、図のように接線の傾きに対応する。



2変数関数の場合は、接平面になり、|\nabla f| が接平面の傾き(勾配の大きさ)に対応する。


 前の項で説明したように、接平面の勾配の方向は \nabla ベクトルの方向にある。 この話は放物線でなくても成り立つ。 与えられた曲面 z=f(x,y) に対して、接平面を考えていけばよい。



5. まとめ

勾配は、

    \begin{eqnarray*} \nabla f(x,y)=\left(\begin{array}{c} \frac{\partial f}{\partial x}\\\\\frac{\partial f}{\partial y}\end{array}\right) \end{eqnarray*}

で表される。勾配がベクトルであるのは、坂道を登る方向が必要だからである。


 ここでは数学的な記述を用いて勾配の意味を説明した。 そういう意味で、「勾配が何に使えるか」には触れていない。 つぎは、勾配のイメージがわかるような内容に触れていく。



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