なぜ強磁性体ではスピンの磁気モーメントの方向が揃っているかを、Weissの分子磁場理論によって説明する。この理論により強磁性体のCurie-Weiss則を求めることができる。
目次
1. Weissの分子磁場理論
1.1 常磁性体と強磁性体との違い
おおまかな違いは、低温で磁場がないスピンの様子である。
- 常磁性体:スピンの方向がばらばら
- 強磁性体:スピンの方向が揃っている
下図(左)のように常磁性体の場合でも、外部磁場をかけるとスピン(磁気モーメント)の方向が揃う。これは、磁気モーメントが外部磁場の方向と同じ方向を向いている方がエネルギー的に安定であるからである(参考:外場中の双極子モーメントのエネルギー)。
強磁性体の場合は外部磁場がなくてもスピンの方向が揃っている。つまり、外部磁場がなくても全体としてある方向に自発磁化を持っている。
1.2 Weissの分子磁場
そこで強磁性体の中に、常磁性体にかけた外部磁場に対応する何かしらの磁場があるならば、磁気モーメントの方向が揃うはずであると考えた。そこで導入されたのが Weissの分子磁場 である。
下図のように外部磁場 に対応する分子磁場を として、強磁性を説明するのがWeissの分子磁場理論である。
1.3 Curie-Weiss則
磁場があるときの磁化 を求めるために、以下の ブリルアン関数を用いる。
ここで全角運動量 の代わりに全スピン角運動量 に置き換えた。Fe などの 遷移金属を扱う場合は軌道角運動量の消失(凍結)がありのため妥当である。
磁場 を Weissの分子磁場 に置き換えると、強磁性体の自発磁化 が分かる(参考:ブリルアン関数)。
ここで、 の場合 、 はボーア磁子、 は後に示す定数、 はボルツマン定数、 は温度である。
Curie点は となる温度 である。 におけるブリルアン関数の展開より
となる。したがって、磁化 は
となる。これよりCurie温度 が分かる。
Curie温度以上では有効磁場 のように分子磁場と外部磁場の和で表す。 を用いて上と同じように計算すれば、帯磁率として
が得られる(Curie-Wiess則)。
2. 交換相互作用で見る
分子磁場理論を交換相互作用でみると定数 の正体がわかる。
2.1 出発点:ハイゼンベルグモデル
下図(左)のようなハイゼンベルグハミルトニアンを出発点とする。位置 のスピンは、 以外のすべての位置 にいるスピンから交換相互作用 を受ける。
Weissの分子磁場理論では が受ける交換相互作用をまとめてしまう。
- :熱平均値で置き換え
- :サイトの依存性をなくす
さらに簡単にするため、 の最近接のスピンからの相互作用のみ考える。最近接スピンの個数を 個とすると、 が受ける交換相互作用は、
ここで、
この を1.3 で求めた Curie温度 の式に代入して以下を得る。
※Weissの分子磁場の理論では局在スピンの描像を使ったハイゼンベルグモデルを出発点とする。つまり、はじめに示した絵のように磁気モーメントを「はっきりとした矢印」で表現した。しかし、よく知られているように、 電子は結晶中を動き回る遍歴性を持っているため正確な表現ではない。
3. まとめ
Weissの分子磁場理論を用いて強磁性の起源を見てきた。Curie-Weiss則も得ることができる。