金属中の伝導電子が外部磁場を受けたときにどのようになるかの話である。状態密度さえ理解できていればパウリの常磁性は問題なく理解できるはずだ。
1. 状態密度の復習
1.1 初学者のための状態密度の見方
初学者のために状態密度(DOS; density of states)を簡単に復習する。磁性のない場合の状態密度の概略図を下に示す。
簡単にまとめる。
- フェルミエネルギー まで電子が詰まる( K)
- 伝導電子が自由電子的(電子など)なら の形
- ピークになっているエネルギーは状態数が多い
- 縦軸エネルギー、横軸に状態数とするときもある(1.2参照)
1.2 非磁性金属の状態密度
金属の場合はフェルミエネルギーまでびっしりと電子が詰まっている。upスピン・downスピンともにびっしりである(ギャップはない)。したがって、磁性を持たない場合は状態密度は図の左のように対称である。
図の右には磁性がある場合の状態密度を描いた。たとえば BCC Fe の 軌道などを考えれば良い。磁性がある場合は、upとdownスピンの数が異なるため全体として磁化している(いまは反強磁性などを考えない)。
パウリの常磁性は、左図の磁性がない伝導電子の話である。
2. パウリの常磁性
2.1 どのように磁化するか
磁性のない状態から、磁場 をupスピンと同じ方向に印加しよう。このとき磁気モーメント(あるいはスピン)が磁場 の方向に向いているか、反対に向いているかでエネルギーの増減が決まる。
- 磁気モーメントが磁場に平行:エネルギーが下がる
- 磁気モーメントが磁場に反平行:エネルギーが上がる
いまの場合、upスピンに平行な を考えたので、エネルギーの増減により状態密度が「ずれる」ことになる(図の真ん中)。
このエネルギー差は、 である。
真ん中の状態だとエネルギーが高い状態があるために、downスピンがエネルギーの低いupスピンへ移動する(均す)。その結果として図の右のように、upスピンの数がdownスピンより多くなる。
- (downスピンの数)<(upスピンの数) より磁化する
2.2 どれくらい磁化するか(磁化率)
- :upスピンの電子数
- :downスピンの電子数
とすると、
- 磁化
- 全電子数
である。
上の状態密度においてエネルギーの原点を放物線の底にとり、状態密度の形を とする。このとき、電子の移動が起こるエネルギーにおける状態密度の高さは 程度である。これに幅 をかけたものが移動する電子の数である。
- 移動する電子数の見積もり
したがって、移動した後のupスピン、downスピンの電子数は、
である。したがって、磁化 は
となる。これより、パウリの常磁性磁化率 がわかる。
3. まとめ
磁性のない伝導電子の状態密度を使って、パウリの常磁性磁化率を求めてきた。移動する電子がどの程度か見積もることが大切である。
また、状態密度が自由電子型の場合は、 であり、より具体的にパウリの常磁性磁化率が求められる。結果のみ下に示す。