波動関数の対称・反対称/パウリの排他原理


 量子力学の話になる。パウリの排他原理が波動関数 \Phi の反対称性から導かれるということを簡単に説明する。以下に簡単にまとめた。


波動関数の対称性・反対称性

\Phi が対称:

  • ボーズ粒子(光子など)
  • ボーズ・アインシュタイン統計
  • 整数スピン S=0,1,...
\Phi が反対称:
  • フェルミ粒子(電子など)
  • フェルミ・ディラック統計
  • パウリの排他原理
  • 半整数スピン S=\frac{1}{2},\frac{3}{2},...





1. 波動関数の対称・反対称

1.1 粒子を入れ替える

 {\bf r_1},{\bf r_2} にある2個の電子1,電子2を考える。

  • \Phi(\ro,\rt):波動関数
  • \hat{P}:電子1と電子2を入れ替える演算子

とすると、粒子の入れ替えを2回行った場合は同じ波動関数になるはずである。

    \begin{eqnarray*} \hat{P^2}\Phi(\ro,\rt)=\Phi(\ro,\rt)=1\cdot\Phi(\ro,\rt) \end{eqnarray*}

 これは、演算子 \hat{P^2} の固有値が1であることを表している。したがって、 \hat{P} の固有値は \pm 1 になる。つまり、

    \begin{eqnarray*} \hat{P}\Phi(\ro,\rt)&=&\textcolor{red}{+}\Phi(\rt,\ro) \\ \\ \hat{P}\Phi(\ro,\rt)&=&\textcolor{red}{-}\Phi(\rt,\ro) \end{eqnarray*}

になる。粒子の入れ替えに対して、波動関数に \pm がつく。

  • 対称性 :\hat{P}\Phi(\ro,\rt)&=&+\Phi(\rt,\ro)
  • 反対称性:\hat{P}\Phi(\ro,\rt)&=&-\Phi(\rt,\ro)

であり、波動関数が対称性をもつ粒子をボーズ粒子波動関数が反対称性を持つ粒子をフェルミ粒子と呼ぶ。



1.2 2粒子波動関数→N粒子波動関数

 以降、粒子間の相互作用はないと仮定する。この仮定により、N 粒子の波動関数を N 個の1粒子状態の波動関数の積(ハートリー積)で記述できる。

 2粒子の場合を考える。ボーズ粒子の場合は、粒子の入れ換えに対して対象であった。したがって波動関数は、

    \begin{eqnarray*} \Phi(\ro,\rt)=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_1 (\ro) \phi_2 (\rt) \textcolor{red}{+} \phi_1 (\ro) \phi_2 (\rt)\right) \end{eqnarray*}

のように表すことができる。\frac{1}{\sqrt{2}} は規格化定数である。\phi({\bf r}) は1粒子状態の波動関数を表す。

 上のような波動関数の形であれば、P\Phi(\ro,\rt)=\textcolor{red}{+}\Phi(\rt,\ro) は確認できる。

 一方でフェルミ粒子の場合は、

    \begin{eqnarray*} \Phi(\ro,\rt)=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\phi_1 (\ro) \phi_2 (\rt) \textcolor{red}{-} \phi_1 (\ro) \phi_2 (\rt)\right) \end{eqnarray*}

である。ボーズ粒子と同様に、この波動関数の形であれば、P\Phi(\ro,\rt)=\textcolor{red}{-}\Phi(\rt,\ro) は確認できる。

 2粒子から N 粒子に拡張する。ボーズ粒子の場合、N 粒子波動関数は

    \begin{eqnarray*} \frac{1}{\sqrt{N!}}\sum_{P\in {\mathcal S}}\phi_1({\bf r}_{P(1)}) \phi_2({\bf r}_{P(2)}) \phi_3({\bf r}_{P(3)}) \cdot\cdots\cdot \phi_N({\bf r}_{P(N)}) \end{eqnarray*}

のように表すことができる。P は置換で、粒子の入れ替えを表す。P によって i 番目の粒子の位置 {\bf r}_ii を除いた \{1,2, ...,i-1,i+1,...,N\} のどれかの粒子の位置と入れ替わる。これを P(i) と書いた。入れ替え PN! 通り(置換の集合 \mathcal S の要素数が N! 個)あるため、規格化因子は \frac{1}{\sqrt{N!}} となる。


 次にフェルミ粒子の場合を考える。波動関数に反対称性があるため、粒子の入れ替え操作 P ごとに符号が入れ替わる。つまり、P が偶置換か奇置換かによる。N 個のフェルミ粒子の波動関数

    \begin{eqnarray*} \frac{1}{\sqrt{N!}}\sum_{P\in {\mathcal S}}\textcolor{red}{(-1)^{P}}\phi_1({\bf r}_{P(1)}) \phi_2({\bf r}_{P(2)}) \phi_3({\bf r}_{P(3)}) \cdot\cdots\cdot \phi_N({\bf r}_{P(N)}) \end{eqnarray*}

で表すことができる。(-1)^P=sgn(P) を意味する。



1.3 スレーターの行列式(Slater determinant)

 上式で表されたフェルミ粒子の波動関数の (-1)^{P}粒子が交換するごとに符号が入れ替わることを意味した。これを行列式に対応させたものがスレーターの行列式である。


行列式の性質

行や列を1回入れ替えるごとに符号が入れ替わる

 N 個のフェルミ粒子の波動関数は N\timesN 次元の行列式で表現される。

    \begin{eqnarray*} \frac{1}{\sqrt{N!}} \left|\begin{array}{ccccc} \phi_1 (\ro) &\phi_2(\ro) &\cdots& \phi_{N}(\ro) \\ \phi_1 (\rt) &\phi_2(\rt) &\cdots& \phi_{N}(\rt) \\ \vdots &\vdots & \ddots&\vdots\\ \phi_1 ({\bf r}_N) &\phi_2({\bf r}_N) &\cdots& \phi_{N}({\bf r}_N) \end{array} \right| \end{eqnarray*}

 これがスレーター行列式である。



2. パウリの排他原理(Pauli exclusion principle)

 パウリの排他原理によれば、フェルミ粒子である電子は同一の1粒子状態をとることができない。

2.1 スレーター行列式でみる

 「項目1.3」で示したスレーター行列式からパウリの排他原理をみる。粒子 i と粒子 j が同一の1粒子状態 \phi_k にある場合を考える。つまり、 \phi_k({\bf r}_i) ,\phi_k({\bf r}_j) である(k は1粒子状態の波動関数を指定する、例えば平面波の波数など)。

 スレーター行列式は、

    \begin{eqnarray*} \frac{1}{\sqrt{N!}} \left|\begin{array}{ccccccccc} \phi_1 (\ro) &\phi_2(\ro)&\cdots& \textcolor{red}{\phi_k (\ro)} & \cdots & \textcolor{red}{\phi_k(\ro)} & \cdots & \phi_{N}(\ro) \\ \phi_1 (\rt) &\phi_2(\rt) &\cdots& \textcolor{red}{\phi_k (\rt)} & \cdots & \textcolor{red}{\phi_k(\rt)} & \cdots &\phi_{N}(\rt) \\ \vdots &\vdots & & & & & &\vdots\\ \phi_1 ({\bf r}_N) &\phi_2({\bf r}_N) &\cdots& \textcolor{red}{\phi_k ({\bf r}_N)} & \cdots & \textcolor{red}{\phi_k({\bf r}_N)} & \cdots &\phi_{N}({\bf r}_N) \end{array} \right| \end{eqnarray*}

となる。i 列目と j 列目が同じになっているため、行列式の値は 0 になる。つまり、粒子 i と粒子 j が同一の1粒子状態 \phi_k を取ることができない。

 同じように、\ri=\rj とするとスレーター行列式に同じ「行」が現れて行列式は 0 となる。つまり、2つのフェルミ粒子は同じ位置に来ることができない。

 これがスレーター行列式からわかるパウリの排他原理である。



2.2 粒子の入れ替え P に対する反対称性でみる

 N 個のフェルミ粒子の波動関数を

\Phi(\ro,\rt,\cdots,\ri,\cdots,\rj,\cdots,{\bf r}_N)

とする。 この波動関数に演算子 P を作用させて \ri,\rj を入れ替える。

\Phi(\ro,\rt,\cdots,\ri,\cdots,\rj,\cdots,{\bf r}_N)=\textcolor{red}{-}\Phi(\ro,\rt,\cdots,\rj,\cdots,\ri,\cdots,{\bf r}_N)

 フェルミ粒子が \bfr\equiv\ri=\rj のとき、

    \begin{eqnarray*} 2\Phi(\ro,\rt,\cdots,\bfr,\cdots,\bfr,\cdots,{\bf r}_N)&=&0 \\ \\ \Phi(\ro,\rt,\cdots,\bfr,\cdots,\bfr,\cdots,{\bf r}_N)&=&0 \end{eqnarray*}

となり、パウリの排他原理が導かれる。

 注意して欲しいのは、ここでは N 粒子の波動関数 \Phi を1粒子状態の波動関数 \phi_k の積で表していないことである。これは具体的に \Phi の形を \phi_k の積によって表していたスレーター行列式に比べて一般的な導出の気がする。



2.3 場の理論に関する簡単なコメント

 場の理論の話はここでは立ち入らないが、最後に第二量子化についてコメントしておく。上記の反対称性(対称性)は、第二量子化によって生成・消滅演算子 \hat{a}_k^\dagger,\hat{a}_k の反交換(交換)関係に対応する。さらに、フェルミ粒子の場合は、

(\hat{a}_k^{\dagger})^2\ket{}=(\hat{a}_k)\ket{}=0

であり、パウリの排他原理を要請する。上の式はある状態 k に関してフェルミ粒子を2個生成あるいは2個消滅すると 0 となる。つまり、状態 k に占める粒子数はおそらく 0 か 1 であるということに対応する(実際に許容される粒子数を確認するためには、粒子数を求める演算子 \hat{n} を作って調べる必要がある)。



3. まとめ

 対称性・反対称性を満たす粒子をそれぞれフェルミ粒子・ボーズ粒子と呼ぶことを学んだ。粒子が区別できないという量子力学の要請から、粒子の入れ換えについて波動関数が対称性・反対称性をもつということも学んだ。

 フェルミ粒子におけるパウリの排他原理は、波動関数の反対称性から導出される。反動関数の反対称性を反映したスレーター行列式の形から、パウリの排他原理を導くことも可能である。

 いずれにせよ、パウリの排他原理が量子力学的な要請であることを理解しておきたい。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です