ローレンツ力 → 1電子原子のハミルトニアン


 ローレンツ力(Lorentz force)から以下のハミルトニアンを導出することができる。逆に辿れば、ハミルトニアンからローレンツ力を導くこともできる。難しいのは、ローレンツ力が働く電子の運動方程式が導かれるようなラグランジアンをつくることである。ラグランジアンがわかればハミルトニアンはすぐに作れる。

1電子原子のハミルトニアン

    \begin{eqnarray*} {\mathcal H}=\frac{1}{2m}\left( {\bf p} +\frac{e}{c}{\bf A} \right)^2-e\phi \end{eqnarray*}




1. 解析力学の基礎知識

 基礎知識を簡単にまとめた。ローレンツ力の話は「2.ローレンツ力→ハミルトニアン」から始まる。

1.1 ラグランジアンとラグランジュ方程式

系のラグランジアンは以下で与えられる。

    \begin{eqnarray*} {\mathcal L}\equiv{\mathcal L}({\bf q},\dot{\bf q},t)=T+V \end{eqnarray*}

ここで、T は運動エネルギー、V はポテンシャルを表す。オイラー・ラグランジュ方程式は以下の通り。

    \begin{eqnarray*} \frac{d}{dt}\frac{\partial {\mathcal L}}{\partial \dot{\bf q}}- \frac{\partial {\mathcal L}}{\bf q} \end{eqnarray*}



1.2 ハミルトンの正準運動方程式

詳細は解析力学の教科書に譲る。簡単なまとめは以下の通り。

  • ハミルトニアン {\mathcal H}p_i,q_i を独立変数とする関数
  • ハミルトンの正準運動方程式は以下の通り

    \begin{eqnarray*} \dot{q}_i&=&\frac{\partial {\mathcal H}}{\partial p_i}\\\\ \dot{p}_i&=&-\frac{\partial {\mathcal H}}{\partial q_i}\\\\ \end{eqnarray*}

 系のハミルトニアンを作ることでニュートンの運動方程式を作ることができる。ラグランジアン {\mathcal L} が分かっている場合は、

    \begin{eqnarray*} {\mathcal H}({\bf q},{\bf p},t)={\bf p}\dot{\bf q}-{\mathcal L}({\bf q},{\bf q}_i,t) \end{eqnarray*}

のルジャンドル変換(単なる変数変換)によってハミルトニアンを求めることができる。



1.3 マクスウェル方程式

真空中のマクスウェル方程式(ガウス単位系)のうち、以下の2つを使う。

    \begin{eqnarray*} \nabla\cdot {\bf B}&=&0\\\\ \nabla\times {\bf E}&=&-\frac{\partial {\bf B}}{\partial t} \end{eqnarray*}

この2つの式はベクトルポテンシャル \bf A とスカラーポテンシャル \phi によって、

    \begin{eqnarray*} B&=&\nabla\times A\\\\ E&=&-\frac{1}{c}\frac{\partial {\bf A}}{\partial t}-\nabla\phi \end{eqnarray*}

と置ける。上のマクスウェル方程式に代入すると、確かに成り立っていることがわかる(\nabla\times(\nabla\times{\bf A})=0 の関係など使う)。



2. ローレンツ力 → ハミルトニアン

速度 \bf v で運動する電子のローレンツ力は以下の通り。

    \begin{eqnarray*} {\bf F}=-e\left({\bf E}+\frac{1}{c}{\bf v}\times {\bf B}\right)\quad(e>0) \end{eqnarray*}

これに対して、以下の手順でハミルトニアンを求める。

  1. ニュートンの運動方程式を満たすような、ラグランジアンをつくる。
  2. ハミルトニアンをつくる。



2.1 ラグランジアンをつくる

まず、{\bf E},{\bf B} で表されたローレンツ力を \phi,{\bf A} で表す。

    \begin{eqnarray*} {\bf F}&=&-e\left\{ -\frac{1}{c}\frac{\partial {\bf A}}{\partial t}-\nabla\phi +\frac{1}{c}\textcolor{blue}{{\bf v}\times\left( \nabla\times A\right)} \right\}\\\\ &=&-e\left\{-\nabla\phi -\frac{1}{c}\left[\textcolor{red}{\frac{\partial {\bf A}}{\partial t}} +\textcolor{blue}{ ({\bf v}\cdot\nabla){\bf A}-\nabla({\bf v}\cdot{\bf A}) } \right] \right\} \end{eqnarray*}


ここでベクトルポテンシャル {\bf A}\equiv{\bf A}({\bf x},t) に注意して、

    \begin{eqnarray*} \frac{d{\bf A}({\bf x},t)}{dt} &=&\frac{\partia {\bf A}({\bf x},t)}{\partial t} +\sum_j\frac{\partial {\bf A}({\bf x},t)}{\partial x_j}\\\\ &=&\frac{\partia {\bf A}({\bf x},t)}{\partial t} +({\bf v}\cdot\nabla){\bf A}({\bf x},t)\\\\\\ \Leftrightarrow\quad  \textcolor{red}{\frac{\partia {\bf A}({\bf x},t)}{\partial t}}&=& \frac{d{\bf A}({\bf x},t)}{dt} -({\bf v}\cdot\nabla){\bf A}({\bf x},t) \end{eqnarray*}

を代入して、

    \begin{eqnarray*} {\bf F}&=&-e\left\{-\nabla\phi -\frac{1}{c}\left[\textcolor{red}{ \frac{d{\bf A}}{dt} -\cancel{({\bf v}\cdot\nabla){\bf A}} }+ \cancel{({\bf v}\cdot\nabla){\bf A}}-\nabla({\bf v}\cdot{\bf A}) \right] \right\}\\\\ &=& e\left\{\nabla\phi +\frac{1}{c}\left[\frac{d{\bf A}}{dt} -\nabla({\bf v}\cdot{\bf A})\right] \right\} \end{eqnarray*}



この {\bf F} の形から、ラグランジアンを以下のように置く。

    \begin{eqnarray*} {\mathcal L}({\bf x},{\bf v},t)= \frac{1}{2}m{\bf v}^2 + e\phi({\bf x},t)-\frac{e}{c}{\bf v}\cdot{\bf A} \end{eqnarray*}

このラグランジアンに対して、

    \begin{eqnarray*} \frac{d}{dt}\frac{\partial {\mathcal L}}{\partial {\bf v}} &=& m\dot{\bf v}-\frac{e}{c}\frac{d{\bf A}}{dt}\\\\\\ \frac{\partial {\mathcal L}}{\partial {\bf x}} &=&\nabla{\mathcal L}\\\\ &=& e\nabla \phi- \frac{e}{c}\nabla({\bf v}\cdot{\bf A}) \end{eqnarray*}


したがって、

    \begin{eqnarray*} \frac{d}{dt}\frac{\partial {\mathcal L}}{\partial {\bf v}}- \frac{\partial {\mathcal L}}{\partial {\bf x}} &=&m\dot{\bf v}-\frac{e}{c}\frac{d{\bf A}}{dt} -e\nabla\phi+ \frac{e}{c}\nabla({\bf v}\cdot{\bf A})\\\\ &=& m\dot{\bf v} \textcolor{red}{-e\nabla\phi -\frac{e}{c}\left[\frac{d{\bf A}}{dt}- \frac{e}{c}\nabla({\bf v}\cdot{\bf A})\right]}\\\\ &=& m\dot{\bf v}\textcolor{red}{-{\bf F}}\\\\ &=& 0\quad\blacksquare \end{eqnarray*}

 式の途中で、{\bf F} の形ができる。また、最後の行の0はニュートンの運動方程式を満たすためである。

 上の式から、与えたラグランジアンはラグランジュ方程式を満たすことがわかる。したがって、ローレンツ力による電子の運動方程式を与えるラグランジアンのひとつは以下のようにとることができる。

ラグランジアンのひとつ

    \begin{eqnarray*} {\mathcal L}({\bf x},{\bf v},t)= \frac{1}{2}m{\bf v}^2 + e\phi({\bf x},t)-\frac{e}{c}{\bf v}\cdot{\bf A} \end{eqnarray*}



2.2 ハミルトニアンをつくる

    \begin{eqnarray*} p_i &=& \frac{\partial L}{\partial v}\\\\ &=&mv_i-\frac{e}{c}A_i\\\\\\ \rightarrow\quad {\bf v}&=&\frac{1}{m}\left( {\bf p}+\frac{e}{c}{\bf A} \right) \end{eqnarray*}

したがって、

    \begin{eqnarray*} {\mathcal H}&=&\sum_i p_i \dot{x}_i -{\mathcal L}\\\\ &=& (m{\bf v}-\frac{e}{c}{\bf A})\cdot\dot{\bf x} - \frac{1}{2}m{\bf v}^2 - e\phi({\bf x},t)+\frac{e}{c}{\bf v}\cdot{\bf A}\\\\ &=& \frac{1}{2}m{\bf v}^2 -e \phi\\\\ &=& \frac{1}{2}m\left({\bf p}+\frac{e}{c}{\bf A}\right)^2 -e \phi\quad \blacksquare \end{eqnarray*}



3. まとめ

以下の手順でハミルトニアンを求めてきた。

  1. ニュートンの運動方程式を満たすような、ラグランジアンをつくる。
  2. ハミルトニアンをつくる。

ラグランジアンをつくるところが大変だったと思う。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です