わかりやすいホール効果/ホール効果で分かること/ホール係数


 電流の流れている針金に電流に垂直な磁場をかければローレンツ力を受けることはよく知られている。ホール効果は針金中を運動する電子のレベルでのローレンツ力が重要な鍵になる。ここではそのホール効果の基礎を簡単にまとめよう。


1. ホール効果でわかること

 何によって半導体に電流が流れているかは、よく知られているように電子や正孔である。ここでいう正孔とは電子の抜け穴のようなもので正電荷をもつ。これらの電流の担い手をキャリアという。「キャリアが何なのか(電子か正孔か)」と「キャリアがどのくらいあるか(キャリア密度)」は半導体における重要な物性である。

 これらを調べるためにホール効果が主に非磁性の半導体で応用されている。ホール効果の実験を測定することで主に以下の物性が測定できる。

  • 半導体のキャリアの種類(電子か正孔か)
  • 半導体のキャリア密度

キャリア密度が大きいほど電流が流れやすい、つまり抵抗は小さいだろう。

※ややこしいがホール効果のHallは人名で正孔のHoleとは何の関係もない^{[1]}



2. ホール効果の実験

 ここではキャリアは負電荷の電子であるとする。正孔の場合は、「2.3 キャリアの種類の特定」で考える。


2.1 ホール効果のかんたんな流れ

 ホール効果で起こることを簡単にまとめておく。

  1. 電流の向き x 軸に垂直な z 軸に磁場をかける
  2. 電子は磁場によりローレンツ力をうける(電流と磁場に垂直な y軸方向)
  3. y 軸方向に電子の偏りができ、y 軸方向にホール電場ができる
  4. y 軸方向についてホール電場(横電場)とローレンツ力がつりあう


2.2 キャリア密度を測定

キャリア密度を測定するための手順を実験の模式図を使って説明する。


  1. 電流の向き x 軸に垂直な z 軸に磁場をかける

  2. 電子がローレンツ力をうける

 電荷 -e をもった粒子が磁場 {\bf H}^[2] を速度 {\bf v} で運動すると以下のローレンツ力 {\bf F} をうける。

    \begin{eqnarray*} {\bf F}=-e{\bf v}\times {\bf H} \end{eqnarray*}


 電子の場合は電流の向きと逆向きに運動する。この場合 x 軸のマイナス方向に電子は速度をもつ。したがって、z 軸の正の向きに磁場 H がある場合のローレンツ力の向きは以下の通りである。つまり、v_x から H に右ネジを回す向きと逆向き(-e)である。

 電子でなくて正孔の場合も -y の方向にローレンツ力を受けることに注意する(2.3「キャリアの種類の特定」を参照)。


  3. y 軸方向の電子の偏り

 下図(上)のように、半導体の中の各電子が一様な磁場 H からそれぞれローレンツ力を受ける。その結果、下図(下)のように電子が 手前(y 軸の負の向き)に集まり電子が偏る。

 電子がローレンツ力により -y 方向に集まったため、y 方向にはホール電場と呼ばれる横電場 E_y ができる。


  4. ホール電場(横電場)とローレンツ力のつり合い

 電子は y 方向に2つの力をうける。「横電場による力」と磁場による「ローレンツ力」である。ローレンツ力のほうが大きい場合は、電子は -y 方向に力をうけるため、-y 方向に電子が集まる。-y 方向に電子が増えれば横電場 E_y は大きくなり、電子が受ける「横電場による力」も大きくなる。

 したがって、下図のようにある段階で2つの力がつりあう。

 

このとき、力のつり合いから

    \begin{eqnarray*} eE_y = ev_x H \quad \rightarrow \quad E_y=v_x H \end{eqnarray*}

ここで、電子の速度 v_x と電流密度 j_x の関係は、

    \begin{eqnarray*} j_x=-nev_x\quad\rightarrow\quad v_x = -\frac{j_x}{ne} \end{eqnarray*}

である。ここで n はキャリア密度(電子の密度)、 e は電荷素量 (1.6\times 10^{-19})である。

 この関係を用いて、

    \begin{eqnarray*} E_y=-\frac{j_x}{ne}H \end{eqnarray*}

となる。この式の中で値がわかるものは電流密度 j_x、定数 e、かけた磁場の大きさ H である。したがって未知の値は E_y と キャリア密度 n である。しかし、E_y については下図のように y 方向の電圧 V_y の測定値と y 方向の試料の幅 W からわかる。

 したがって、ホール効果の実験によってキャリア密度 n がわかる。

    \begin{eqnarray*} n=-\frac{j_x H}{eE_y} \end{eqnarray*}


 電子の場合は E_y < 0 であることに注意する。


2.3 キャリアの種類を特定

 上の実験ではキャリアとして電子を扱った。正孔の場合は電荷が逆であるが、運動の向きも電子と逆になるためローレンツ力の向きは電子と同じである。

 その結果、正孔は -y の方向へ運動するためにホール電場(横電場)E_y は電子の E_y逆符号になる。したがって、y 方向の電圧がプラスかマイナスか調べればキャリアが正孔か電子かわかる。


2.4 ホール係数

 ホール効果の実験のまとめとして、最後にキャリア密度とキャリアの種類のために便利なホール係数 R_H を定義する。

ホール係数

    \begin{eqnarray*} R_H=\frac{E_y}{j_x H}=-\frac{1}{ne} \end{eqnarray*}

R_H の大きさからキャリア密度 n がわかる。

また、R_H の符号によりキャリアの種類が特定できる。

  • 電子の場合:E_y<0 \rightarrow R_H<0
  • 正孔の場合:E_y>0 \rightarrow R_H>0

3. まとめ

 ホール効果の実験により非磁性半導体のキャリア密度キャリアの種類がわかる。この結果、考えている半導体が 「p 型半導体」か 「n 型半導体」がわかる。このようにホール効果の実験は、半導体の物性を調べる上で非常に重要な実験である。

 非磁性でない場合、例えば強磁性体の場合はどうなるか。もともと内部磁場が存在しているため少々ややこしくなるだろう。この場合のホール効果については特に異常ホール効果という。



[1]:ホール効果はエポニム(wiki)である。Hallは人名でありHoleと発音も異なる。つまり、HallとHoleとはWhole differentである。
[2]:非磁性の場合は {\bf H}{\bf B} の差が小さいためここでは {\bf H} とした。


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