化学ポテンシャル(フェルミレベル)の温度依存性


 ゾンマーフェルト展開を用いて、化学ポテンシャル(フェルミレベル)\mu(T)=E_{\rm F}(T) の温度依存性を求めていく。 最後に自由電子の場合の状態密度に対して、フェルミレベルの温度依存性を求めていく。


前提知識

ゾンマーフェルト展開

ゾンマーフェルト展開は以下で与えられる(【導出】)。

    \begin{eqnarray*} \int_{-\infty}^{\infty} H(E)f(E) dE= G(\mu(T)) + \frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2 \frac{dH(E)}{dE}\big|_{E=\mu(T)} + \frac{7\pi^4}{360}(k_{\rm B}T)^4\frac{d^3 H(E)}{dE^3}\big|_{E=\mu(T)} + \cdots \end{eqnarray*}

ここで、

    \begin{eqnarray*} G(E)\equiv \int_{-\infty}^{E} H(E')\,dE' \end{eqnarray*}


導出

 粒子数 N が保存する条件のもと \mu(T) を計算していく。 以下では状態密度を N(E) と表す。


粒子数Nを表す

 粒子数 N は保存するため、T=0 K での N を求める。 T=0 Kのとき、フェルミ分布関数はフェルミレベル \mu(0) まで 1 である。 これより、粒子数 N

    \begin{eqnarray*} N&=&\int_{-\infty}^{\infty} N(E)f(E) \,dE\\ &=&\int_{-\infty}^{\mu(0)} N(E) \,dE \quad\cdots\quad(1) \end{eqnarray*}

と表すことができる。つまり、下図の面積に対応する。


有限温度における粒子数Nの表現

 粒子数 N を有限温度の \mu(T) により表すこともできる。 N を求める際に、有限温度の場合は N(E) にフェルミ分布関数 f(E) をかけて積分する必要がある。

    \begin{eqnarray*} N&=&\int_{-\infty}^\infty N(E)f(E)\,dE \end{eqnarray*}

右辺にゾンマーフェルト展開を用いる。このとき、H(E)=N(E) である。 よって、

    \begin{eqnarray*} G(E)\equiv \int_{-\infty}^{E} N(E')\,dE' \end{eqnarray*}

である。したがって、ゾンマーフェルト展開の第二項までとって、

    \begin{eqnarray*} N&\simeq &G(\mu(T))+\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(T)}\\ &=&\textcolor{red}{\int_{-\infty}^{\mu(T)}} N(E)\,dE +\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(T)}\\ &=&\textcolor{red}{\int_{-\infty}^{\mu(0)}} N(E)\,dE+\textcolor{red}{\int_{\mu(0)}^{\mu(T)}} N(E)\,dE +\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(T)} \end{eqnarray*}

となる。積分は \mu(0) を経由しておこない、2つに分割している。 このように分割したときの第一項は式(1)の N に対応する。よって、

    \begin{eqnarray*} \cancel{N} &=& \cancel{N}+ \int_{\mu(0)}^{\mu(T)} N(E)\,dE +\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(T)} \end{eqnarray*}

となる。


 ここで、 エネルギーが \mu(0) から \mu(T) に変化する間、N(E) の値が変化しないものとする。 つまり、N(E)\simeq N(\mu(0)) (定数)と近似すると、被積分関数は定数となるため、

    \begin{eqnarray*} \int_{\mu(0)}^{\mu(T)} N(E)\,dE &\simeq &N(\mu(0)) \int_{\mu(0)}^{\mu(T)} \,dE = N(\mu(0))\left( \mu(T)-\mu(0) \right) \end{eqnarray*}

と積分を実行できる。また、

    \begin{eqnarray*} \frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(T)}\simeq \frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(\textcolor{red}{0})} \end{eqnarray*}

と近似する。


したがって、

    \begin{eqnarray*} 0 &=& N(\mu(0))\left( \mu(T)-\mu(0) \right) +\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(0)}\\ \Leftrightarrow \quad \mu(T)&=& \mu(0)-\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{1}{N(\mu(0))}\frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(0)}\quad\blacksquare \end{eqnarray*}

が得られる。\mu(T)\mu(0) で表すことができる。


ポイント

\mu(T) を状態密度 N(E) で表す。

    \begin{eqnarray*} N'(\mu(0))\equiv \frac{dN(E)}{dE}\Bigg|_{E=\mu(0)} \end{eqnarray*}

とすると、

    \begin{eqnarray*} \mu(T)\simeq \mu(0)-\frac{\pi^2}{6}(k_{\rm B}T)^2\frac{N'(\mu(0))}{N(\mu(0))}\quad\blacksquare \end{eqnarray*}

となる。

 この式における状態密度 N(E) の形については、以下で説明するような自由電子の \sqrt{E} に比例する形でなくてもよい。



自由電子におけるフェルミレベルの温度依存性

 自由電子の状態密度は、

    \begin{eqnarray*} N(E)=\frac{V}{2\pi}\left( \frac{2m}{\hbar} \right)^{\frac{3}{2}}E^{\frac{1}{2}} \end{eqnarray*}

で表される。

【参考】フェルミと3次元の自由電子の状態密度


 これより、

    \begin{eqnarray*} N'(E)=\frac{dN(E)}{dE}=\frac{V}{4\pi}\left( \frac{2m}{\hbar} \right)^{\frac{3}{2}}E^{-\frac{1}{2}} \end{eqnarray*}

であり、

    \begin{eqnarray*} \frac{N'(\mu(0))}{N(\mu(0))} &=&\frac{1}{2\mu(0)} \end{eqnarray*}

となる。


 したがって、有限温度におけるフェルミレベル \mu(T)

    \begin{eqnarray*} \mu(T)\simeq \mu(0)-\frac{\pi^2}{12}(k_{\rm B}T)^2\frac{1}{\mu(0)}\quad\cdots\quad(2) \end{eqnarray*}

となる。


 フェルミレベルが T=0 Kのときに比べて低いエネルギー側にシフトする理由は、状態密度 N(E)\sqrt{E} に比例する増加関数であるからである。

 フェルミ分布関数 f(E)\mu(T) に対して対称な関数であるため、\mu(0) のまま N(E)f(E) を表すとする。このとき、図のように熱エネルギーにより空いた席 N_1 と 埋まった席 N_2 の関係は N_1 < N_2 となる。 この大小関係は N(E) が増加関数であるためである。


 

したがって \mu(0) で固定した場合には、粒子数は N_2-N_1 > 0 だけ増加するために、 フェルミレベルを低いエネルギー側(粒子数を減らす方向)にシフト させる必要がある。 このような理由から、式(2)の第二項が負で、フェルミレベルを押し下げる方向に働いている。


 このように、自由電子の状態密度においては \mu(T)  < \mu(0) となっているが、一般的な傾向ではないことに注意する。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です