外場中の双極子モーメントのエネルギー(U=-p•Eの話)


 双極子モーメントの外場中でのポテンシャルエネルギーを考える。ここでは、導出にはトルク {\bf N}={\bf p}\times{\bf E} は用いない。電場中の電気双極子モーメントでも、磁場中の磁気双極子モーメントでも同じ形になる。


外場中の双極子モーメント

外場 {\bf E} 中にある双極子モーメント {\bf p} のポテンシャルは以下で与えられる。

    \begin{eqnarray*}U=-{\bf p}\cdot{\bf E}\end{eqnarray*}


1. トルクを使わない導出

 図のように電場 \bf E から傾いた電気双極子モーメント \bf p のポテンシャルは、{\bf E}{\bf p} の内積の逆符号である。

 以下では U=-{\bf p}\cdot{\bf E} を導出しよう。


1.1 無限遠から運んでくる

 簡単に言って、電気双極子モーメントは +q の点電荷と -q の点電荷のペア である。点電荷は無限遠でポテンシャルを 0 に定義していることを思い出そう。

②→③にするのに必要な仕事は?

最終的に③の状態になるまでどれだけ仕事したか、を考える。

①:無限遠にある双極子モーメント(2つの点電荷)、ポテンシャルは無限遠を 0 にとる。

②:無限遠から原点まで運んでくる。点電荷は電場から \pm qE の静電気力を電場方向 {\bf E} に受ける。

  • 電場に垂直な方向:仕事ゼロ
  • 電場と並行な方向:+qE-qE の仕事は逆符号で相殺してゼロ

したがって、電場と垂直な双極子モーメントをポテンシャル 0(基準) として、電場方向に双極子モーメントを傾けていく。

③:電場と双極子モーメントのなす角が \theta の状態(目的の状態)



1.2 双極子モーメントを傾ける

 図に全部描いてしまったが。双極子モーメントは赤矢印で {\bf p}=q{\bf d} で表されている(d=|{\bf d}|)。

\theta=\frac{\pi}{2} をポテンシャル 0 とする。
  • 双極子モーメント:赤矢印、両端に +q-q の点電荷、双極子モーメントの中点(\textcolor{blue}{\frac{d}{2}})を軸に回転
  • 電場 {\bf E} により2つの点電荷はそれぞれ逆方向に力 qE を受ける
  • 電場方向の電荷の移動距離は \textcolor{blue}{\frac{d}{2}\cos\theta}
  • 電場垂直方向の移動については仕事 0

したがって電場 {\bf E} にある 電気双極子モーメント {\bf p}=q{\bf d} のポテンシャルは、

    \begin{eqnarray*} U&=&2\left[\textcolor{red}{-}qE\cdot\frac{d}{2}\cos\theta\right]\\ \\ &=& \textcolor{red}{-}qdE\cos\theta \\ \\ &=& \textcolor{red}{-}{\bf p}\cdot {\bf E} \quad \blacksquare \end{eqnarray*}

 なぜマイナスになったかわからない場合は重力の位置エネルギーを考えてみるとよい。次にその説明をする。



1.3 なぜマイナスがついた?

 保存力である重力の位置エネルギーは高さ h として mgh になる。

 基準 0 の位置から高さ h まで質量 m の物体を運ぶとき、重力は常に下向きの負(\textcolor{red}{-}mg)になっている。高さ h まで物体を運ぶと、重力と同じ上向きの力 f=mg による仕事 mgh が必要になる。

 したがって、位置エネルギーは mgh となる。

 これとまったく同じように、+q の電荷も qE と逆向きの力(図の下向き) \textcolor{red}{-}qE によって図の上向きに運ばれている。したがって、最終状態にある +q の電荷のポテンシャルエネルギーは、

(力: \textcolor{red}{-}qE ) × (移動距離 \frac{d}{2}\cos\theta

となる。-q の電荷についても考えるので、2倍してやれば良い。



2. まとめ

 電気双極子モーメントを考えたが、磁気双極子モーメントの場合も同様である。


磁場B中の磁気モーメントmのエネルギー

    \begin{eqnarray*} U&=&-{\bf m}\cdot{\bf B}\\&=&-m B \cos\theta \end{eqnarray*}


 双極子モーメントと外場の内積の形になっているため、双極子モーメントと外場の向きが同じならエネルギー的に安定である。したがって、磁気モーメントの場合は、外部磁場によってモーメントは外部磁場方向に揃おうとする(常磁性体を思い浮かべれば良い)。




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