【フーリエ級数】はじめての複素フーリエ級数展開/複素フーリエ係数の求め方


 三角関数で表されていたフーリエ級数を複素数に拡張してみよう。 フーリエ級数のコンセプトは簡単で

周期関数f(x)を同じ周期を持った関数の集まりで展開

ということである。 関数の集まりが「\cos,\sin」であったり、複素数の「e^{ikx}」になったりしているだけである。 フーリエ級数で展開する意味・イメージなどは下で学んでほしい。

結果だけ最初にまとめておく。

複素フーリエ級数展開(周期2π)

    \begin{eqnarray*} &&f(x)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}c_ne^{inx}\\\\ &&c_n=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{+\pi} f(x) e^{-inx}\,dx \end{eqnarray*}


複素関数で展開

 ここでは複素フーリエ級数展開に至るまでの考え方をまとめておく。 説明のため、周期2\piとしているが、一般の周期L([-L/2:L/2])でも 同様である。周期Lの結果は最後にまとめた。また、実用的な複素フーリエ係数の計算は「第2項」から始まる。

フーリエ級数のコンセプトから

 冒頭でも説明したように 周期関数f(x)を同じ周期を持った関数の集まりで展開 がコンセプトである。たとえば2\pi周期を持ったものとして高校生であれば\cos x,\sin xなどが真っ先に思いつく。

 しかし、大学1年を迎えたすべてのひとは「e^{ix}もあります!」と複素平面に範囲を広げて答えるべきである。

 このことは、指数関数が有名なオイラーの式

    \begin{eqnarray*} e^{ix}=\cos x+i\sin x \end{eqnarray*}

  によって展開されることを思い出せばわかるだろう。


2πの周期性を持った指数関数を探そう

次に複素数を肩にもつ指数関数で、周期が2\piの関数を探そう。

まずe^{ix}について。e^{ix}の形が出てきたら以下の複素平面をイメージすると良い。

ぐるっと回って(2\pi)もとの位置に戻るだろう。 したがって、e^{ix}2\piの周期性をもつ。


 同様にe^{2ix},e^{3ix},e^{4ix},\cdots2\piの周期性をもつ。 また、e^{-ix},e^{-2ix},e^{-3ix},\cdotsなども2\piの周期性をもつ。 このことから、2\piの周期性をもつ指数関数の形は、

    \begin{eqnarray*} e^{inx}\quad(n=0,\pm1,\pm2,+\cdots) \end{eqnarray*}

 と表すことができる。 この指数関数の組を用いて、周期2\piをもつf(x)を展開することができそうである。 とりあえず展開係数をc_nとして展開しておこう。

    \begin{eqnarray*} f(x)&=&\cdots+c_{-2}e^{-2ix}+c_{-1}e^{-ix}+c_0\\ &&\quad+c_1e^{ix}+c_2e^{2ix}+\cdots \end{eqnarray*}

 残る問題は、c_nを「簡単に求められるかどうか?」である。


なぜ関数の直交性を大事にするか

 \{e^{inx}\}で展開したとして、展開係数(複素フーリエ係数)が 簡単に求めることができないなら使い物にならない。 展開係数を求めるために重要なことは直交性である。

 その理由は平面ベクトルを考えるとわかる。 まず平面をつくる2つの長さ1のベクトルを考える。 このとき、 「ある平面ベクトルが2つのベクトルの方向にどれだけの重みで進んでいるか」 を調べたいとする。

以下の例を見てみよう。どちらが簡単に重み(展開係数)を求めやすいだろうか。

 平面ベクトルをつくる2つの平面ベクトル(基底)が直交しているほうが求めやすい気がする。すなわち展開係数を簡単に求められることが直感的にわかるだろう。 その理由は基底ベクトルの「内積が0」になり、互いに直交しているからである。


 今考えている、基底e^{inx}についても同様に e^{ix}e^{3ix}などが直交していたら展開係数が簡単に求めることができると思うだろう。

 以下では複素関数 e^{imx}e^{inx}内積を計算する。 計算方法は「三角関数の直交性」と同じことをする。ただし、内積は「複素関数の内積」であることに注意する(一方の関数は複素共役 (*) をとること)。


m=nのとき:

    \begin{eqnarray*} \int_{-\pi}^{\pi}\textcolor{red}{(e^{imx})^{*}}e^{imx}\,dx &=&\int_{-\pi}^{\pi}\textcolor{red}{e^{-imx}}e^{imx}\,dx\\\\ &=&2\pi\quad\blacksquare \end{eqnarray*}

m\neqnのとき:

    \begin{eqnarray*} \int_{-\pi}^{\pi}\textcolor{red}{(e^{imx})^{*}}e^{inx}\,dx &=& \int_{-\pi}^{\pi}\textcolor{red}{e^{-imx}}e^{inx}\,dx\\\\ &=& \int_{-\pi}^{\pi}e^{i(n-m)x}\,dx\\\\ &=& \frac{1}{i(n-m)}\left[e^{i(n-m)x}\right]_{-\pi}^{\pi}\\\\ &=&0\quad\blacksquare \end{eqnarray*}

 指数関数になった分、積分の計算が実行しやすいだろう。

得られた結果はまさに「三角関数の直交性」と同様である。 重要な結果なのでまとめておく。

ポイント

    \begin{eqnarray*} \int_{-\pi}^{\pi}\textcolor{red}{(e^{imx})^{*}}e^{inx}\,dx=2\pi\delta_{mn} \end{eqnarray*}

ここで\deltaはクロネッカーのデルタと呼ばれ、

    \begin{eqnarray*} \delta_{mn}=\begin{cases} 1\quad(m=n)\\ 0\quad(m\neqn) \end{cases} \end{eqnarray*}

で表される。

 この直交性を用いて、複素フーリエ係数を計算していく。


* 内積、関数空間、三角関数の直交性の話は別にまとめています。そちらを参考にされたい。


複素フーリエ係数の計算

 まず展開は、

    \begin{eqnarray*} f(x)&=&\cdotsc_{-2}e^{-2ix}+c_{-1}e^{-ix}+c_0\\ &+&c_1e^{ix}+c_2e^{2ix}+\cdots\quad\quad\cdots(*) \end{eqnarray*}

 であった。\sumを使ってまとめておく。

    \begin{eqnarray*} f(x)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}c_ne^{inx} \end{eqnarray*}

 この複素フーリエ係数c_nを求めよう。


複素フーリエ係数の導出

係数の求め方の方針:\{e^{inx}\}の直交性を利用する。


STEP 1. (*)の両辺にe^{imx}をかける。

    \begin{eqnarray*} f(x)\textcolor{blue}{e^{imx}}&=&\cdots+c_{-2}e^{-2ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}+ c_{-1}e^{-ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}+c_0\textcolor{blue}{e^{imx}}\\\\ &+&c_1e^{ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}+c_2e^{2ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}+\cdots \end{eqnarray*}


STEP 2. [-\pi:+\pi]で積分する(直交性の利用)。

    \begin{eqnarray*} \int_{-\pi}^{+\pi}f(x)\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx&=&\cdots +c_{-2}\int_{-\pi}^{+\pi}e^{-2ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx +c_{-1}\int_{-\pi}^{+\pi}e^{-ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx +c_0\int_{-\pi}^{+\pi}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx\\\\ &+&c_1\int_{-\pi}^{+\pi}e^{ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx +c_2\int_{-\pi}^{+\pi}e^{2ix}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx+\cdots\\\\ &=&c_{-m}\int_{-\pi}^{+\pi}e^{-imx}\textcolor{blue}{e^{imx}}\,dx\\\\ &=&2\pi c_{-m} \end{eqnarray*}

右辺のたくさんの項は直交性により0になる。 e^{imx}をかけて積分した後、唯一残るのは-mの項である。


STEP 3.c_mが求められる。

    \begin{eqnarray*} c_n=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}\,dx \end{eqnarray*}

上の式で、m\rightarrow-nとした。

これで複素フーリエ係数 c_n を求めることができた。


周期2Lの場合

周期Lf(x)の展開については、 以下のような周期Lの複素関数を用意すれば良い。

    \begin{eqnarray*} \left\{e^{\frac{2\pi ni}{L}x}\right\} \end{eqnarray*}


以下に結果をまとめる。

直交性:

    \begin{eqnarray*} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} (e^{\frac{2\pi mi}{L}x})^{*}e^{\frac{2\pi ni}{L}x}\,dx=L\delta_{mn} \end{eqnarray*}

複素フーリエ係数:

    \begin{eqnarray*} c_n=\frac{1}{L}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}f(x)e^{-\frac{2\pi ni}{L}x}\,dx \end{eqnarray*}


複素フーリエ級数の嬉しいところ

 指数関数は積分や微分が簡単にできる。 したがって複素フーリエ係数は\cos,\sinで表したときよりも 求めやすいはずである。

 さらに、複素関数で展開することにより、 展開される周期関数が複素関数でも扱えるようになった。 より一般化されたことにより応用範囲も広いだろう。


まとめ

 複素フーリエ級数展開について考え方を説明してきた。 フーリエ級数のコンセプトさえ理解していればどうということはなかったはずだ。

 実用面では、複素フーリエ係数の求め方もマスターしておきたい。 といっても「直交性」を用いればいつでも導くことができる。 実際の計算は指数関数の積分になった分、\sin,\cosよりは簡単にできるだろう。


さて、もしf(x)が周期関数でなくても、これに似た展開ができるだろうか…(次項へ続く)。



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